読書

山田洋次はつらいよ

おれも近頃では丸くなって山田洋次の映画なんかも見るようになったのだが、寅さんだかなんだか、ああいう世界はどうにも、きもち悪くていけねえ。 切通理作『山田洋次の』(ちくま新書)を読んだ。 山田洋次が助監督時代に書いた『睡い』というシナリオが紹…

プライドにとって賛美とは何か

たかがスポーツ選手の活躍を、我々はなぜあれほどまでに手放しで賛美できるのだろうか。猛練習によって甲子園に出場した高校生は地元の誇りであるが、方や、猛勉強によって東大に合格した高校生は、賞賛されるどころかその成功をねたまれ、存在を無視される…

オーディオとか

学生の頃に、友人の家に遊びにいったら、そいつの家は金持ちだったから部屋には立派なオーディオセットがあった。うらやましくてしょうがなかったが、しかしレコードラックを見ると、どれもしょーもない流行歌ばかりで、ブタに真珠だと思った。 それ以来、ど…

科学とは何なんですか

ぶっちゃけ、カール・ポパーのいう反証可能性というのが、よくわからない。だれか、バカにもわかるように説明してくれないか。 「反証可能性を持つ仮説のみが科学的な仮説である」というのは、なんとなくわかる。わかったつもりで、科学とは仮説である、と考…

お山の大将の迷信

君塚良一『「踊る大捜査線」あの名台詞が書けたわけ』(朝日新書)に、こんな話がある。 萩本欽一は、「三つの運は同時に来ない」と考えている。三つの運とは、仕事・健康・家庭(恋人)。 「神様は、ぼくたちに平等に運を与えてくれる」。しかし、神様は一…

ジャズのようなもの

マイク・モラスキー『戦後日本のジャズ文化』(青土社)を読む。 著者はアメリカ人。戦後の日本文化に通じていて、ジャズピアニストでもある。ジャズの原点はライブ演奏とコミュニケーションだ、という著者のジャズ観には、説得力がある。 ところが、戦後日…

演歌という発明

輪島裕介『創られた「日本の心」神話』(光文社新書)を読む。 「演歌は日本の心」などと言うが、「演歌」が生まれたのは1960年代後半であり、たかだか40年程度の歴史しかない。演歌は、いかにして「日本独自の国民的」ジャンルとなったのか。著者はそれを膨…

会社ごっこ

泉美木蘭『会社ごっこ』(太田出版)を読む。 著者は大学卒業後に上京して、渋谷のベンチャー企業に就職。しかしそこはすでに倒産状態で、退職。しかしパーティーで知り合った「スゲーやつ」に誘われて、会社設立を手伝うことになる。その「スゲーやつ」とは…

安っぽい小説

角田光代の「八日目の蝉」を読んだけど、あまりのくだらなさにびっくりした。スカスカの文章に、ばからしいストーリー。ご都合主義の展開ばかりで、サスペンスもなにもない。 ラストに「安っぽい小説みたい」というセリフが出てくるが、それはこの小説のこと…

落語は笑えない

広瀬和生『落語評論はなぜ役に立たないのか』(光文社新書)を読む。 「寄席は面白くない」のではない。「面白いときもあるし、そうでないときもある」。面白い落語家を教えるから、寄席に行け。と著者は書く。だとすると、本書は評論ではなく、ガイドブックか…

寿命のローソク

子供の頃に見たアニメで、すごいこわいシーンがあった。 男がある場所に行くと、そこには、火のついているローソクがいっぱいある。このローソクの炎が人の寿命を表しているという。つまり、ローソクが燃え尽きたら、その人は死ぬというわけだ。いっぱいある…

罰とは何か

いいこと考えた。とはいえ、オレが考えたわけではなく、考えたのは川崎徹氏である。 『大人の学校・入学編』(静山社文庫)のなかで、こう述べている。 例えば、これも最近考えた話なんですけど、最近はいろんな犯罪がありますよね。子供の大学の入試で裏工…

推理小説はバカらしい

推理小説にはくだらぬものが多いが、誰が言い出したのか、ネタバレはいけないという風潮があって、どこがどう、くだらぬかを具体的に書くことができない。しかし、くだらないものは、くだらないのであり、そういうことをはっきり書いたほうが、読者もくだら…

仏教はバカらしい

横山紘一『十牛図入門』(幻冬舎新書)を読む。 「十牛図」という禅の入門図があって、本書はそれを「唯識思想」によって解説している。 おれは仏教というのは勉強しても得るものがなにもないと思ってるので、こういう本を読んでもまったく改心しない。困った…

悟りとは何か

悟りというのは、「一切は空である」ということを知ることだ。知ったからといって、どうにかなるわけではない。 釈尊は菩提樹の下で悟りを開いた。そしてその喜びのまま成仏したいと願った。 ところがそこに梵天が現れて、「衆生の救済のために、その法を説…

久世光彦と向田邦子

小林竜雄『久世光彦vs.向田邦子』 (朝日新書)を読む。 『時間ですよ』の原作は橋田壽賀子で、最初の脚本も橋田が書いていた。しかし、久世光彦の演出が気に入らず、ケンカして4回で降板。銭湯で女の裸が出ることが我慢できない、マチャアキと樹木希林のコン…

よりぬき霊言

『週刊文春』2月3日号。 大川隆法総裁 夫人 ついに明かした「教組の私生活 カネと女 」 最近、大川総裁の公の場における活動として、目立つのが「霊言」だ。きょう子夫人はこう話す。 「坂本龍馬、マッカーサー、金丸信、最近は菅直人首相や宇宙人の霊までも…

ちがうものを見ている

別役実は、「演劇とユーモア」というエッセイで、次のような寓話を紹介している。 十年前から芝居が病みつきになって、シーズンごとに劇場に通わずにはいられなくなった男がいた。 或る男が興味をもって「十年前に何を見たんだい?」と聞いてみた。 「いや、…

死ぬのがこわい

テレビには、いやなやつばかりが出ている。それでも、ああ、この人たちもいずれ死ぬんだなあ、と思うと、少しは気が晴れる。 時々僕は自分が一時間ごとに齢を取っていくような気さえする。そして恐ろしいことに、それは真実なのだ。 (村上春樹『風の歌を聴け…

推理小説を読む阿呆に書く阿呆

森博嗣の『小説家という職業』(集英社新書)。 これは小説家になるための指南書なのだろうが、森博嗣はこう書いている。 「もしあなたが小説家になりたかったら、小説など読むな」 これは逆説でも皮肉でもなくて、森は本当にそう確信しているようだ。「小説…

思い出の綿矢りさ

大塚英志『大学論』(講談社新書)より引用。 ぼくは以前、金原ひとみが話題となった時、彼女の小説をそれよりずっと前、同人誌で目にしていたことのある老批評家が、こういう自傷行為をカミングアウトするような表現をせざるを得ない幼さや危うさを抱えたま…

優しくない三谷幸喜

三谷幸喜・脚本の芝居『君となら』の元ネタは、アラン・エイクボーンの『レラティブリー・スピーキング』(邦題「こちらがあたしのお父さん」「パパに乾杯」)だと気づいた。よくできた脚本だと思ったが、その「よくできた」部分は、エイクボーンのアイデア…

山頭火という俗物

種田山頭火の、書を見たことがある。 べつにそれが目当てではなく、とある展覧会に行ったら、会場の一角に展示してあった。 短冊に筆と墨で、「まつすぐな道でさみしい」だの「分け入つても分け入つても青い山」だの、くだらぬ俳句が書いてあった。その字が…

「愛こそすべて」ではない

愛さえあれば、世界から争いがなくなるとか、人が幸福になれるとか、主張する人がいるが、大きなまちがいである。愛にも、いろいろなものがある。 『世界で一番美しい夜』という映画では、世界平和のために縄文人の性欲を研究する元過激派というのが出てきて…

もし俺がドラッカーを読んだら

ドラッカーというくだらぬものが流行しているので、一言申しておきたい。 あんなものは商人道徳である。 商人の仕事は、ゼニ儲けである。安く仕入れて、高く売ることである。そこにはなんら高尚な理想も哲学もない。 ゼニ儲けは、いやしいことである。世の中…

革命なんか認めないですわよ

池田理代子のマンガ『天の涯まで・ポーランド秘史』。 「秘史」となっているが、英雄ユーゼフ・ポニャトフスキを主人公に、ポーランド分割の悲劇を歴史に忠実に描いている。とにかく、わかりやすくて、おもしろい。ポーランドのややこしい歴史が、こんなにわ…

アホバカまぬけ考

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸なものである」という言葉があるが、これはほかのことにも応用できそうだ。 かしこい人はどれも似たものだが、バカはそれぞれにバカである。 成功者はどれも似たものだが、失敗した人はそれぞ…

オープンソース信者は共産主義の夢を見るか

違法なダウンロードの増加により、音楽業界では、CDだけでなく、ダウンロードまで売れなくなっているという。音楽業界誌『オリコン』の小池恒社長は「“音楽はタダ”という間違った認識が蔓延している」と語っている(産経新聞5月7日)。 しかし、いまさら嘆い…

クレバー・ハンス錯誤とピグマリオン効果

先日もちょっと紹介した『ものの見方考え方・第2集・手品・トリック・超能力』(季節社)という本に、「クレバー・ハンス」という馬のことが載っていた。 この飼い主はフォン・オステンという人で、高等動物には人間と同じくらいの知能があるという考えの持…

だます人、だまされる人

『ものの見方考え方・第2集・手品・トリック・超能力』(季節社)という本に、佐藤忠男「『だます』ことと『だまされる』こと」という論文が載っている。そこで紹介されている伊丹万作のエッセイが興味深いので、孫引きになるが紹介してみたい。 敗戦の翌年…