思い出の綿矢りさ

大塚英志『大学論』(講談社新書)より引用。

 ぼくは以前、金原ひとみが話題となった時、彼女の小説をそれよりずっと前、同人誌で目にしていたことのある老批評家が、こういう自傷行為をカミングアウトするような表現をせざるを得ない幼さや危うさを抱えたままの作家を不用意にビジネスにしてしまう文壇の現状を小さなコラムで諌めていたことを読み、深く感銘したことがある。
 確かに表現の世界ではこの「不安定さ」こそが「売り」になることが少なからずある。
 しかし、それは不幸なことだし、「不安定さ」を「売り」にした結果、自らを壊していった作家やまんが家をぼくはたくさん知っている。それは「見せ物」としてはおもしろいかもしれないが、「ものを描く」こととは自らを壊すことだという見解には同意できない。だからといってぼくはビジネスライクに割り切って描け、といっているわけでもない。
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