推理小説はバカらしい

 推理小説にはくだらぬものが多いが、誰が言い出したのか、ネタバレはいけないという風潮があって、どこがどう、くだらぬかを具体的に書くことができない。しかし、くだらないものは、くだらないのであり、そういうことをはっきり書いたほうが、読者もくだらぬ本を読まなくてすむ。
 それで鮎川哲也の『悪魔はここに』という短編を、俎上にのせることにする。もちろん犯人もトリックも、すべてばらして批判する。
 あらすじは以下の通りである。いわゆる嵐の山荘ものである。
 資産家の牧良介という老人の屋敷に、親族や客人が集まってくる。一夜が明けると、牧良介が寝室で死体となっている。何者かによって殺されたのだ。良介にはお面を集める趣味があり、現場に飾られていた「おかめの面」が一つだけ逆さまになっていた。
 続いて、良介の姪の夫である海彦が、炊事場のガス爆発で死ぬ。何者かが夜中にガスの元栓を開けており、海彦はそれを知らずにコンロに火をつけたのだった。その現場では、なんと小型の冷蔵庫が逆さまにされていた。
 さらに第三の殺人が起こる。被害者は、良介の囲碁仲間の猪谷老人。彼は部屋の中でベルトを使って絞殺されていた。その現場では、今度は壁の油絵が逆さまにされていた。
 警察は大雨と土砂崩れで到着が遅れ、かわりに星影龍三というダサい名前の名探偵がきて、事件を推理する。この名探偵は、「犯人の正体は十分間で見破れた」「犯人の名前は最初から諸君の前に提示されていた」という。
 ここから、謎解きである。
 最初の被害者の牧良介は、ローマ字論者だった。ローマ字論者はアナグラムが好きである。良介は寝室で殺されたが、死ぬ間際に犯人の名前をダイイング・メッセージとして残した。それが、逆さまにされた「おかめの面」である。
 OKAMEを逆読みすると、エマコとなる。つまり犯人は、姪の絵馬子である。
 絵馬子は、良介を殺したあと、現場に残された「おかめの面」の意味に気づいた。このままでは、自分の犯行がばれてしまう。どうすればいいか。そうだ、人々には、これを別の意味に解釈させればいいのだ。「おかめの面」を逆さまにしたのは、被害者ではなくて、犯人がやったのだと思わせよう。
 そして第二、第三の殺人を犯して、冷蔵庫や油絵を逆さまにした。こうすれば、「おかめの面」も、犯人が逆さまにしたのだと、人々が誤解するはずだと考えた。アホである。
 絵馬子は、良介の実の姪ではなかった。絵馬子の父は、良介と海彦の策略から自殺に追い込まれた。絵馬子はその恨みから、姪に成りすましてこの家に入り、二人を殺した。その殺人がばれそうになったので、猪谷老人も殺した。
 こんなものは、大人の読み物ではない。

このミステリーがひどい!

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