クラシック音楽を知識として勉強したいだけなら、金はかからない。
大きな図書館には、たいていクラシックのレコードやCDがそろえられてあって、タダで聴くことができる。偉大な作曲家についての解説書のたぐいも、主要なものは図書館に置いてある。クラシック音楽は学校教育でも公認された教養であるから、どこの学校の図書室や音楽室にも「クラシック音楽全集」くらいはあるはずだ。NHKのFMでは毎日流されている。
俺もそういうもので、勉強してきた。
しかし、クラシックの音楽家になろうとするなら、話はべつだ。金持ちしか、クラシック音楽の道には進めない。
音楽大学に行くには、バカ高い学費がいる。いや、音大に入るまでに、毎月のレッスン費用もいるし、高価な楽器も必要だ。海外留学くらいしていないと、キャリアに箔がつかない。
しかし、音大を出たからといって、ろくな就職口はないし、音楽で食っていけるのはごく一部である。そんなものに大金を払ってまで我が子を通わせることができるのは、よほど裕福な家庭だけだ。人生のスタート地点で、すでに勝敗はついている。
昨年のことであるが、坂本龍一のこんな発言が話題になった。
「従来の音楽ビジネスは世界的に下降線を辿っていますが、音楽の消費や需要は増えています。けれど、音楽はどんどんタダ化が進んで、プライスがゼロに近づいてきています」。
「メディアという点から見ても、この100年くらいでコンテンツはどんどんゼロに近づいているんです。例えば『第九』。最初のSPは10数枚組くらいかな、もっとかな。ところがCDだと1枚に収められる。それで今度は音楽配信になると、メディアレスのデータのみになる。どんどん小さくなって、見えなくなる」。
「それで、10数枚組のレコードとデータを比べて『第九の本当の値段って、いくらなの?』って言ったとき、誰も答えられないでしょう? つまり、これまで音楽を買っているつもりで払っていた値段が、実は製造や運搬というパッケージのコストだったことが、インターネットの登場で露わになったんですね」。
ネットでは発言の一部が抜粋されているだけなので、坂本龍一の真意はわからない。音楽がタダになることを、良いと思っているのか、悪いと思っているのか。
NHK教育テレビで『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』という番組が放送されている。
この番組のもとになったのは、「コモンズ・スコラ」という坂本龍一責任監修による『音楽全集』の出版企画である。これは、全30巻を予定して刊行されている途中だが、価格がバカ高い。
名曲のさわりを集めたCD1枚に、解説のブックレット付で、一冊8925円である。全巻買うとなると、26万以上かかる。
「音楽の学校」などとうたっているが、一般の学生が買える値段ではない。
ぼったくりも、はなはだしい。
『スコラ』という番組にしても、かつてフジテレビで放送された『音楽の正体』という番組の方がよほど内容が濃かった。
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