差分はスゴ本

 佐藤雅彦『差分』を読む。これはなんとも、奇妙な本である。ページには二枚の簡単なイラストが並んでいるだけなのだが、その静止画のイラストが、動いて見えるのである。アニメーションが見せる動きとも、ちがう。脳の中にまったく別の映像が浮かんでくる感覚。
 この感覚は、言葉でちょっとうまく説明できない。こういうのを専門に扱うのは、認知科学といった分野になるのだろうか。いやしかし、なんだこれ? という未知の生物の発見に似たきもち悪さがある。紙に描かれたイラストとは別の映像が、脳の中に生まれるのである。
 一つの映像から、脳が勝手に「意味」を補完する、ということなのか。脳がこのような勝手な働きをしているのであれば、客観性とは何か。これは哲学的にも大きな問題だ。
 それはそれとして、北野武の映画に大胆なカットのつなぎがあるが、あれはこの原理の応用かもしれない。それにしても佐藤雅彦氏は、ふしぎなことを考えつく人だ。

差分

差分