ライ麦畑でファック・ユー

 J.D.サリンジャーライ麦畑でつかまえて』は、野崎孝の訳で読んでいたので、村上春樹が翻訳したところで新たに読もうとは思わなかったのであるが、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で、「笑い男事件」というのがあって、これで『ライ麦』がちょこっと出てきて、読み返してみたらこんな文章があった。
 まずは、野崎孝訳・白水ブックスから(P314より引用)

 僕は、来たときと別な階段を下りたんだけど、そこの壁にもまた「オマンコシヨウ」が書いてあった。僕はもう一度手でこすって消そうとしたけど、今度のやつは、ナイフかなんかで、彫ってあるんだな。消したって消えるもんじゃない。
 そうでなくたって、絶望だね。
 かりに百万年かけて消して歩いたって、世界じゅうの「オマンコシヨウ」は半分だって消せやしないんだから。

 これが、村上春樹・訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』では、次のようになっている。(単行本・P334)

 僕はべつの階段を下りたんだけど、そこの壁にもまた「ファック・ユー」って落書きがあった。
 また手でこすって消そうとしたんだけど、それは刻み込んであった。ナイフとかそういうものを使ってね。だから消せなかった。どのみちきりがないんだ。
 たとえ百万年かけたところで、君には世界中にある「ファック・ユー」の落書きを半分だって消すことはできないんだからさ。

 村上春樹の小説には、わりと性描写がある。でもそれはたぶん、「オマンコシヨウ」ではなく、「ファック・ユー」なんだと思う。
 だってそうじゃないか。
 僕は、ハルキストなんだ。
 渋谷のオサレなカフェで、「オマンコシヨウ」って書いてある本が読めるかい?
 そういうことさ。
 そんなものは最初から存在していないんだ。
 やれやれ。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)