顔をぶたないで、私女優なんだから

ギャオで映画『Wの悲劇』

薬師丸ひろ子主演の映画で、一番いいのがこれ、という評判は知っていたのだが、長らく見ないでいた。

好きなアイドルが、キスしたり抱き合っているのをたとえ映画であろうと見たくないと考えていた純情な男子だった自分のことを、ほろ苦く思い出す。

おおぜいの無名の劇団員たちが、演技の練習をしているシーンでは、希望にあふれ、しかしやがて夢破れていく青春の姿をそこに見て、目頭が熱くなる。

ひろ子ちゃんは、こんなにスタイル悪かったんだなあ。いや、今の女性のスタイルがいいのは、家畜に投与された成長ホルモンの影響らしいが。

昔の映画というのは、出演者のその後を知っているだけに、それだけでも興味深い。

三田佳子がスキャンダルに巻き込まれる女優役で出ているのだけど、息子の不祥事の時とは違い、この映画では、毅然とした態度をとる。劇団員を前に、つぎのセリフを言うシーンは、なかなか見ごたえがあった。

あたしたち、お客様に道徳教えるために芝居やってるわけじゃないでしょ。
私生活と舞台と、どんな関係があるの?

私生活がきれいじゃなきゃ、舞台に立つ資格がないっておっしゃるの?
それじゃ、どなたかしら? 舞台に立つ資格がおありになるの。
みんな資格なんか、ないんじゃないの。

やすえさん、劇団を維持してくため、好きな芝居を作ってくため、でもお金がない、アルバイトしてると稽古ができない、そんな時、
オンナ使いませんでした?
あたしは、してきたわ。
あたしが今この舞台に立てるのも、楽屋が花で一杯になるのもあたしを抱いてくれた男たちのおかげかもしれない。
チケットを買ってくれた人もあるわ。洋服を買ってくれた人、お酒を飲ませて、食事をさせてくれた人、アパートの部屋代を払ってくれた人・・・

演劇界には、いまだにこんなことを言って、若い女優のタマゴを手篭めにしていそうな、オヤジがごろごろいそうであるが、それはそれとして、三田佳子もあの時、芸能リポーターを相手に、こう言い返せばよかったのだ。

まあ彼女の場合、テレビの2時間ドラマで「お客様に道徳教える」ような役で人気を得ていたから、反発もあろうが、お茶の間の正義だとか道徳と、闘う女優の姿を見たかった。

私生活と舞台は関係ない、とはいいつつ、女優の私生活が映画に、別のおもしろさを付加するのも確か。

ひろ子ちゃんのライバル役で出演していた高木美保が、いまや文化人づらして、ワイドショーのコメンテーターとなり、
お客様に道徳を教えている。