民俗学者の宮本常一による聞き書き『土佐源氏』を読んだのはずいぶん前だが、よくできた話で、その当時からこの話の事実性が疑われていた。これが実話なら、誰にも知られず消え去っていくはずだった庶民の営みを、宮本常一が奇跡的な出会いによって採録した民俗学というもののロマンを感じさせるものであるが、やはり作り話であった。
井出幸男『宮本常一と土佐源氏の真実』に、そのことが論証されている。もとは宮本常一が名前を伏せて書いた『土佐乞食の色ざんげ』というポルノ小説である。宮本は『チャタレイ夫人の恋人』に影響されて、これを書いた。のちに、その露骨な性描写を削除したうえで、これを民俗学の文献として発表した。
それにしても宮本常一がなぜこんな、民俗学者としての信頼を失いかねないこのようなことをやったのか、その動機がわからない。
- 作者:井出 幸男
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: 単行本