井上ひさしと原爆投下の嘘

 井上ひさしには、『父と暮らせば』『紙屋町さくらホテル』『少年口伝隊一九四五』というヒロシマ三部作(大笹吉雄)と呼ばれる戯曲があって、原爆を題材にしていることから平和集会などで上演されることも多い。
 だが、『少年口伝隊一九四五』には明らかな間違いがある。

 ……すると、見よ、あれは落下傘だ。
 B29が落下傘を落として行った。

 黒い土管のようなものをぶら下げた
 その落下傘は、四十五秒もかけて
 ゆっくりと降りてくると、
 上空五百八十メートルのところで……

 一瞬の大光量。

 青空が裂けて、
 天地が砕けた。

 爆発から一秒あとの
 火の玉の温度は一万二千度だった。
 太陽の表面温度は六千度だから、
 街の上に太陽が二つ並んだことになる。
(『井上ひさし全芝居その七』新潮社・545頁より)

 広島に投下された原子爆弾に「落下傘」(パラシュート)がついていたというのは、嘘である。これは、原爆と同時に投下された計測器に落下傘がついていたことから広まった俗説で、広島市の「原爆被爆者対策事業概要」にも1990年版までそのように書かれてあったが、史実と違うので訂正された。
 井上ひさし『少年口伝隊一九四五』の初演は、2008年2月22日の東京・新宿の全労済ホール、その後『すばる』(2008年5月号)に戯曲が掲載された。すでに史実は知られていた。
 井上ひさしは膨大な資料を調べたうえで作品を書いていたというのだが、それも怪しいものである。また、周りの人も井上ひさしに遠慮して誤解を正すこともしなかったのだろう。
 おかけで井上ひさし亡き後、上演したくても勝手に台本を書き直すこともできず、困ったことになってしまった。

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父と暮せば

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