井上ひさしは耳と鼻から血が吹き出るまで妻を殴った

 日本近代演劇史研究会編『井上ひさしの演劇』(翰林書房)は、複数の研究者や評論家による論文集である。
 この中で、井上理恵は次のように書いている。

天保十二年のシェイクスピア」はDVDで観た。とにかく長い(二〇〇五年九月、蜷川幸雄演出DVD、二二五分)。
 ギャグと地口と駄洒落と語呂合わせが満載で、しかも濡れ場が妙にリアルでグロテスクなポルノ風。例えば「4 おとこ殺し腰巻地獄」では、唐沢寿明扮する三世次(リチャード三世張り)が太った女郎の巨大な乳房を掴んで歌い続け、これでもかこれでもかという具合で異常に長くて辟易し、嫌悪感を模様した。蜷川幸雄はやはり女性嫌悪・女性蔑視があると思わざるを得ない演出であった。俳優にも人権がある。芸術なら何をやってもいいという時代は終わった。(37頁)

 蜷川幸雄の演出は、戯曲に忠実である。これが「グロテスクなポルノ風」であるなら、井上ひさしの戯曲がそうなのである。蜷川幸雄に「女性嫌悪・女性蔑視がある」なら、井上ひさしにもそれはある。
 ここで「人権」をいうのであれば、井上理恵はなぜ井上ひさしの妻や娘に対するきちがいじみた暴力について書かないのか。井上理恵だけでない、演劇関係者はなぜ井上ひさしの暴力について口をつぐんでいるのか。西舘好子の『修羅の棲む家』と、石川麻矢の『激突家族』を読んでないわけがあるまい。
 井上ひさしに殴られた妻は「肋骨と左の鎖骨にひびが入り、鼓膜は破れ、全身打撲。顔はぶよぶよのゴムまりのよう。耳と鼻から血が吹き出て」いた(『修羅の棲む家』)。編集者は、井上ひさしが妻を殴らないと仕事ができないと知っていて、「好子さん、あと二、三発殴られてください」と言った(『激突家族』)。
 人権だの平和だのを、えらそうに主張しながら、井上ひさしの暴力について何も言わない者は、この編集者と同類である。

修羅の棲む家―作家は直木賞を受賞してからさらに酷く妻を殴りだした

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