ビートルズ以前

ビートルズが登場する前のアメリカン・ポップスが好きだ、という人がいて、なるほどなあ、と思ったことがある。
ビートルズ以前にも大衆音楽はあったし、とりたたて貧しくも暗くもなかった。庶民は歌い、歌手を愛した。
ビートルズと比べれば単調なサウンドばかりかもしれないが、そんなものは程度の問題で、ビートルズだって新ウィーン楽派やフリージャズと比べれば単調である。
たしかにビートルズが、その後の音楽を変えた。それまでの大衆音楽はすべて、貧しく暗く、土着的で単調で、時代遅れの民謡だ演歌だと否定され、ビートルズのようなサウンドばかりが世界中を席巻した。
まるでイギリスの植民地だったアフリカのビクトリア湖に、巨大な肉食魚ナイルパーチが放流されそいつが、もとから湖にいた小魚たちを食い尽くしていったように。
歴史を変えるのがそんなに偉大なことなのか。
変わらないほうがいい場合だってあるではないか。

ポールに聞け

Hard Day's Night のイントロだけど、あのコードはなんだろう、という長年の疑問が解けた。
チャック近藤『ビートルズサウンズ大研究』にこう書かれている。

さて問題なのがイントロの「ジャーン」のコードだ。
通説では、Gsus4-7だが、私の説は一口で言ってしまえばDsus4-7ってやつだ。Gsus4-7もDsus4-7も殆ど同じ音使いだけど、あなたはビートルズがやっているということをお忘れではないかな。驚くなかれ、この「ジャーン」にはいくつもの楽器が入っているのだ。分析してみよう。
まず12弦ギターは、高いほうから1弦3フレット目のG、2弦1フレット目のC、3弦2フレット目のA。ベースが2弦7フレット目のAと3弦5フレット目のD。
ピアノは中音のF、G、C。まずこいつらをいっぺんに弾く。だが、これだけでは厚みが出ないということで別テイクをかぶせた。それは、ピアノが低音のDとA。そしてアコースティック・ギターのDsus4-7。これが私の分析だ。
(39ページから引用)

たしかに、これだけの音が重ねられていたら、わからんわ。
アルバムとしてはここから4トラックの録音機となったそうで、リッケンバッカーの12弦ギターが使われている。
だけどこういうことを、なんで誰も、ポールに直接聞こうとしないんだ?