傘がない

買い物を終えて店を出ると、傘立てに入れていた、おれの傘がない。

誰かが盗んでいきやがった。
傘を盗まれるのは、これで何度目かだが、本当に、腹が立つ。

おかげで、家までぬれながら帰った。

桜庭一樹『私の男』は、「男」が、傘を盗むシーンで始まるが、桜庭氏がテレビのインタビューで、
「自分は自転車をよく盗まれるんだけど、どんな小さなものでも、他人のものを盗むということに、罪悪感を持たない人がいるというのは、怖い」
と話していて、共感した。

高校生の時、友人だと思っていたやつと買い物に行き、そいつが平然と万引きするのに、驚いたことがある。

倫理観の欠落した人間というのは、必ずいて、そういうのは矯正できないのだと思う。星新一ショートショートで、たしか、はじめは虫を殺していた子供が、つぎに猫を殺し、つぎにサルを殺し、つぎは……、というのがあった。

人権思想というのは、性善説に立っており、どんな悪人でも、教育によって善人にできるらしいが、そんな考えに根拠はない。
悪人は、ずっと悪人のままである。

もしも、おれが裁判員になったら、被告は必ず死刑にしてやる。