田中角栄の品性を表すエピソードはいろいろあるが、オレが後世に伝えたいのは、宮崎学が『突破者』(南風社)の中で書いているこれ。
ちょうどその頃、御大の田中角栄も上機嫌だった。椿山荘で開かれた首相就任祝賀会。宴もたけなわになったところで、小さな女の子が二人、田中の前に立って花束を捧げた。満面の笑みを浮かべて花束を受け取った首相は、つと懐から財布を取り出すと、二人に一万円札を一枚ずつ渡した。これを見咎めた新聞記者に対して、田中は憮然として言い放ったそうである。
「この世の中で、一番大事なものは命だ。次に大事なものは金だ。私はそう思う。今日は、私の人生の中で一番嬉しい日だ。その嬉しい気持ちを表すのに、命の次に大事なものをあげて、なにが悪いんだッ!」
この田中のリアリズムは、また大衆のリアリズムでもあった。だからこそ、大衆は「庶民宰相」の誕生として、田中政権をこぞって歓迎したのだろう。(207頁)
- 作者: 宮崎学
- 出版社/メーカー: 南風社
- 発売日: 1996/10/01
- メディア: 単行本
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