モンスターマザー

 福田ますみ『モンスターマザー』を読んだ。長野の高校で起きた「いじめ自殺事件」についてのノンフィクションである。
 自殺した生徒の母親の訴えで、校長が殺人罪刑事告訴されるという事態にまで発展するのだが、生徒の自殺の原因はこの母親の異常な性格にあった。とにかくまあ、この母親(さおり)がすさまじい。
 さおりには離婚歴があり、その夫とはインターネットの出会い系サイトで知り合って結婚した。夫は大手企業に勤めるエリートだった。しかし結婚生活はすぐに破綻し、離婚訴訟にまでなる。本書ではその裁判記録が開示されているのだが、夫が録音した食卓での会話がすさまじい。
 さおりが作ったチャーハンに夫がふりかけをかけたとたん、さおりが激昂するのである。その場面を引用する。

さおり(いきなり人に箸を投げつける)「テメエだよ、このブタ野郎」
夫「危ねえな」
さおり「なんだよ、テメエ! テメエのまずいご飯、わざわざ作ってやってなあ、テメエが作りもしねえから作ってやってるのになあ… テメエ、じゃ白いご飯で食えよ。いいよ別にこれ食べなくていい。白いご飯で食べて。このふりかけ食べていいから白いご飯で食べて。これ、あたしが作ったチャーハンだから」
夫「また、『あたしが作った』……」
さおり「まずいんだろお、いいよ食わなくて」
夫「だれも、まずい……」
さおり(絶叫で)「いいよ、ふりかけかけたいなら、そっち食えー!」
夫「まずいなんて言ってないじゃん」
さおり「いいよ、もう。そっちの白いご飯に、ふりかけかけて食べなよ、はいはい、わざわざあたしが手間暇かけて作ったものをなあ、そんなことされたんだったらたまったもんじゃねえんだよ。人をバカにしやがってえ」(絶叫)
夫「おかしいんじゃない」
さおり「テメエだよ、このブタ野郎」(絶叫)
 さおりは夫に対して怒り狂うと、「ブタ野郎」を連発する。
さおり(絶叫で)「テメエだよー、ふざけやがって、このバカ野郎ー。テメエが何やったって言うんだよ、能無し。なんにも役に立たねえ能無しじゃねえか…… 早く食えよぉ」
(中略)
さおり(人にツバを吐きかける)「テメエだよ、バカ野郎。テメエだ! ペッ(ツバを吐く音)」
夫「なに、ツバ」
さおり「なんだよお」
夫「おまえ、ツバを吐くのが癖なの? ねえ、なにかって言えば人にツバばっかり吐きかけてさあ。ふざけるなよ、なあ」
さおり「なんだよお」
夫「人にツバ吐くなんてさあ、すげえ侮辱した行為だぜ」
さおり「バーカ、テメエがやったことのが、よっぽど侮辱だよ」
夫「俺が何をやったよ?」
さおり「何をやってんだ、ふりかけかけて、ブタ野郎が」
 さおりは常に自分を正当化する。
さおり「早く白いメシ食えよお」
夫「いいよー」
さおり「なにい、食えねえ?…………テメエだけなんだよお、金持ってテメエだけ何か食いに行くのか! ふざけんじゃねえ。早く、食えよお。……これ、食えよ」
 異様な喚き声。さおりが夫にものを投げつけガシャガシャ音がする。
さおり「テメエだ、このブタ野郎! このほら吹き男が! 人騙せると思いあがってなあ、冗談じゃねえんだよ。テメエがなあ、騙してんのは分かってんだよ、バカ! 騙して逆ギレ? ふざけんじゃねーぞ、このブタ野郎。人騙すのはテメエじゃねえか、この結婚詐欺師野郎!」
(177-179頁より引用)

「嫁のメシがまずい」の中でも最強の嫁である。
 たかが「ふりかけ」ごときで、なんでこんな目にあわなきゃならないのか。
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音楽に罪はある

 フジロックに左翼の活動家が出演するのがどうだとか、ゆずやRADWIMPSの愛国ソングがどうだとか、電気グルーヴのCD回収がどうだとか、音楽と政治・社会の関係についていろいろ言う人がいるが、そもそも音楽はその成り立ちからしてきわめて政治・社会的なものなのだ。
 その認識を欠いて、「音楽に罪はない」などと主張するのはたんに思慮が浅いのである。
 なぜ自衛隊には音楽隊があるのか。
 それは軍隊にとって音楽が欠かせないものだからである。
 片山杜秀は『鬼子の歌』で、次のように指摘している。

 音楽は美術や文学とはちょっと違います。芸術文化の域にとどまりません。極めて政治的で社会的で実用的な面があります。たとえば西洋式に軍隊を訓練しようとする。幕府の洋式歩兵とかの話です。整列して行進して前進して散会する。合図はどうするでしょうか。野外での人声の届く範囲には限界があります。いちいち叫んでいたらすぐ声が嗄れてしまう。太鼓です。それからラッパでしょう。軍隊には軍楽がなければなりません。大人数の秩序は、荒れ野にさえよく響き渡る、リズムとメロディによってこそ作り出されるのです。軍楽隊は近代軍隊の単なる装飾品ではありません。軍楽の響きは統制上不可欠なのです。軍隊の編成に軍楽が必須とはそういう意味です。
 それゆえ日本の近代化のためにも何はさておき軍楽隊。幕末のうちに太鼓とラッパがこの国に導入され、浸透しました。幕府歩兵はフランス式の鼓笛学で訓練され、薩摩藩はイギリスの指導のもと軍楽隊を鍛えました。戊辰戦争での「官軍」は鼓笛隊の響きとともに東征したのです。そして明治維新後の大日本帝国海軍の軍楽隊は薩摩藩の軍楽隊を受け継いで出来上がってゆきました。一方、大日本帝国陸軍の軍楽隊はというと、旧幕府の流れを汲むかのようにフランスの指導の下に育てられました。大正・昭和まで下っても、音楽家を志す日本人が近代フランス風の音楽の流儀を学びたいとなったら陸軍軍楽隊の系統の人に弟子入りしたらいいという常識が存在したくらいです。
(同書5-6頁)

 いやしかし、それは昔の軍隊の話で、現代の音楽に罪はない。むしろ音楽家は戦争に反対する平和主義者ばかりだと言うであろう。だが、いくら反戦平和の願いが込められた美しい音楽であろうと、その売り上げで、兵器が作られているとすればどうか。
 西崎憲『全ロック史』「41章 ロックと経済」は、音楽と軍事産業の関係について、重要な指摘をしている。(415-416頁)
 音楽業界は七〇年代あたりから巨大な多国籍メディア複合体数社によって独占される。
 ロバート・バーネットの『フローバル・ジュークボックス』によると九四年に世界で配布されたCDなどの音楽の商品の九〇パーセントが、六つの多国籍企業のどれかの取扱いだった。その六つとは「タイム・ワーナー」「ソニー」「フィリップス」「ベルテルスマン」「ソーン・EMI」「松下」である。
 多国籍メディア複合体とは、レコードやカセットの販売から、ミサイルシステムなどの軍事技術までを手がける巨大企業のことである。
 レコードの売り上げは、スタジオ技術の向上やアンプ機器の開発につながり、そこに用いられた集積回路などの電子技術はミサイルに組み込まれる。

 バーネットによれば、七〇年、キース・リチャードは、ポリグラムに吸収されたデッカの軍事技術への関与に関して以下のように述べている。
「おれたちは気づいた。何年も知らなかった。おれたちがデッカのために稼いだ金はアメリカ空軍の爆撃機に載せる小さな黒い箱を作るのに使われてたんだ。北ヴェトナムを爆撃する爆撃機だよ。会社のために稼いだのに、それをレーダーの開発部門に回したんだ。そのことを知った時は、おれたちはほんとに愕然としたよ」
(同書416頁)

鬼子の歌 偏愛音楽的日本近現代史

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全ロック史

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