ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』の視聴率が最低というのだが、まあ、無理もない。とにかくもう出てくるのは、救いようのない人間ばかりである。役者の演技もみょうにうまくて、こういうのが身内にいたらつらいなあ、と思わせて真っ暗な気分になる。
第6話なんか、子供の頃から父親に性的虐待されていた息子の話で、それが原因で精神的におかしくなっていて自殺未遂までするのだが、しかし父親はエリート医師でいまだに息子を追いかけ回しているキチガイである。息子は生活保護をもらって病院で治療することになるのだが、それでいったい何が解決するのか。父親を罪に問うのでもなく、反省する姿を見せるわけでもない。
もう、生活保護をもらったからって、それでどうにかなるようなレベルの人たちじゃないのだ。いったいこれは何なのかと思って、ホラーだと気づいた。
平山夢明は『恐怖の構造』(幻冬舎新書)で、ホラーの定型を、「各論ではハッピーエンドでも総論はバッドエンド」になるものだと指摘している。
ヒッチコックの『サイコ』の場合、ラストで殺人鬼のノーマン・ベイツは捕まります。しかし彼はすでに人格を母に乗っ取られており、反省することはありません。殺された人々も帰ってくるわけではなく、そのために観客の気分は晴れないままです。
つまり「犯人を捕まえる」という各論はハッピーエンドを迎えているものの、「ベイツが罪を悔い改め、被害者も救われたらいいな」という理想的な総論はバッドエンドになっているわけです。
『悪魔のいけにえ』も同様です。レザーフェイス一家に捕まった女の子サリーは、すんでのところで生き延びたものの、最後の場面では発狂を予感させるかのように絶叫しています。おまけに肝心のレザーフェイスはしっかり生き残っており、チェーンソーを振り回して踊る姿を見るかぎり、懲りた様子など微塵もありません。「脱出」という各論には成功したものの、誰も幸せを勝ち取っていないのです。
『ゾンビ』も、主人公のピーターとフランはヘリに乗って命からがらショッピングモールから逃げ出しますが、世界に蔓延したゾンビは滅びておらず、未来に希望があるとはとても言えない状況の中で物語は終わります。
ほかにも『ミスト』しかり『シャイニング』しかり、例をあげればきりがありません。(118-119頁)
『健康で文化的な最低限度の生活』もホラーである。困窮者が「生活保護をもらえる」という各論はハッピーエンドであるものの、未来に希望はなく誰も幸せにならない、総論はバッドエンドである。
ヒロインの吉岡里帆が相手にしているのは、ゾンビやジェイソンや邪悪で凶悪なモンスターである。そう思って見たところで、このドラマがおもしろくなるわけではないのだが。
- 作者: 柏木ハルコ
- 出版社/メーカー: 小学館
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- 作者: 平山夢明
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
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