永遠の佐々木

 辻田真佐憲『大本営発表』(幻冬舎新書)を読んだ。戦時中、日本軍の最高司令部「大本営」がいかにでたらめだったかという論証の本である。
 神風特攻隊が出撃すると、海軍と陸軍は競ってそのパイロット名を報道し、宣伝合戦を行った。特攻隊員ではないが体当たりを実行したパイロットや、特攻隊員ながら事前に戦死したパイロットの名前まで発表した。

 ただ、こうした陸軍報道部の前のめりな宣伝は無理も生んだ。実は、万朶飛行隊員のひとり佐々木友治伍長は生存していたのである。報道部は頭を抱えたが、仕方ないので一度は修正を行なった。
 ただ、特攻隊員の生存は宣伝上きわめて不都合だった。佐々木は死ななければならなかった。その後、佐々木は再び出撃。三日経っても帰還しなかったので、これで大丈夫だと報道部は十二月八日に再び佐々木の名前を特攻隊員として発表した。
 ところが、佐々木はなんとまたもや生存していた。現地部隊は恥の上塗りを怖れて、このことを大本営に報告しなかった。佐々木は特攻隊員だ。いずれは戦死するだろう。こう考えたのである。この結果、佐々木は、内地では「英霊」として扱われた。報道部のゆがんだ報道合戦が、「生きている英霊」を作ってしまったのである。
 ちなみに、佐々木は不屈の精神力で生き延び、戦後復員を果たしたことを付け加えておく。(218-219頁)

 映画化決定(AA略