園子温の『希望の国』を見た。これはコントである。
見始めたときはそうと気づかなかった。まさかいくら園子温といえども、東日本大震災と原発問題を題材にしてその被災者をさんざん笑いものにするとは思いもしなかったからだ。だから思わず笑いそうになる場面でも私はぐっと歯を食いしばって、笑ってはいけない、笑ってはいけない、とがまんしながら映画を見ていた。
それでも婦人科の待合室で妊婦がまじめな顔で、「セシウムが出たんです」と言ったシーンで、これはもうたまらず吹き出してしまった。「セシウムが出たんです」である。これは笑った。そしてこの映画が全編これコントだと気づいた。
それからは思う存分、げらげら笑った。全身を防護服に包んだ神楽坂恵を見て夫が、「おまえは宇宙飛行士か!」というツッコミはおもしろかった。
「原発の畜生め!」というギャグに笑った。いい年をした息子と父親が、ひしと抱き合うのである。ガイガーカウンターが、ガーガー鳴るのである。
さらに津波で廃墟と化した町で、ボケ老人のババアが盆踊りをやるのである。もうだめだ、かんべんしてくれ、おれの腹筋は崩壊した。
この映画のせいで、これからはフクシマと聞くだけで笑ってしまいそうで怖い。
映画の終盤でマーラーの交響曲が流れてきてまた神楽坂恵が小便をするのかと思ってはらはらしたが、そこまではやらなかった。むしろ出産シーンまで見せるべきだったか。
それにしても園子温は、被災者さえ笑いものにする映画を撮るのだからその悪趣味は本物である。

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