コックサッカーブルースと言葉狩り

 村上龍の『コックサッカーブルース』(小学館・1991年)には「知恵足らず」「知恵遅れ」という言葉が出てくるのだが、これが『村上龍自選小説集8』(集英社・2000年)では、別の表現に変えられるか削除されている。どこかからの抗議によるものか、自主規制なのかは定かでない。以下、比較してみる。
○単行本(小学館・1991年)
×『自選小説集8』(集英社・2000年)

○まるでロバート・デ・ニーロのような本格派の役者が知恵足らずの子供を演じているような感じで、ハタケヤマ先生は言った。ノイローゼになった精神科医だということを知らなければ、本当の知恵足らずだと思ったかも知れない。(P163-164)
×まるでロバート・デ・ニーロのような本格派の役者が偏差値の低い子供を演じているような感じで、ハタケヤマ先生は言った。ノイローゼになった精神科医だということを知らなければ、変人だと思ったかも知れない。(P128)

○ 一語一語、語尾の母音をのばして舌足らずに話すルナちゃんは垂れ目だ。舌足らずだが知恵足らずには見えない。(P242)
× 一語一語、語尾の母音をのばして舌足らずに話すルナちゃんは垂れ目だ。舌足らずだが知能が低くは見えない。(P182)

○ オレは知恵足らずの子供のようにうなずいた。(P271)
× オレは悪いことをした子供のようにうなずいた。(P204)

○ オレの知ってるヒロミはハムスターと遊ぶただの頭の足らない女の子だったんだから(P347)
× オレの知ってるヒロミはウサギと遊ぶようすが変なただの女の子だったんだから(P264)

○ そのデブの女は明らかにホルモン異常で、顔付きから判断しても、知恵遅れというか、普通じゃなかった。(P363)
× そのデブの女は明らかにホルモン異常で、顔付きから判断しても、普通じゃなかった。(P276)

○ そういうときにはただの変態の、知恵足らずの女の子になってしまう、(P391)
× そういうときにはただの変態の、ぼんやりした女の子になってしまう、(P298)