世界よ、これがおもてなしだ

 NHKの「探検バクモン」で、爆笑問題が新橋花街を訪れていた。「格式高い花街には、現在にもおもてなし文化が脈々と受け継がれています」とのことらしい。そんな格式高いお茶屋や料亭が、よくぞこんなお笑い芸人ふぜいを座敷にあげたものだと感心した。
 郷ひろみ『ダディ』(幻冬社)には、京都祇園での屈辱的な体験が次のように語られている。
 友人の財界人らと一緒に、「祇園でもその大きさや歴史からして、ベストの部類に入るお茶屋」で遊んだあと、郷ひろみは名刺を出し、そこに書かれている自分の会社へ請求書を送ってほしいとお願いした。すると女将は、芸能人の口座を開くことはしていない、と断る。「何人かの歌舞伎の世界の人たちの口座は持たせていただいているが、芸能界の人の口座を開くことは遠慮している」というのである。これは職業差別ではないか、と一同は怒りを覚える。

 さらに若女将が、うちの場合、伝統や格式といったものが何百年も前から受け継がれているので、できるだけ芸能人はご遠慮したい、ひとりの方をご贔屓にしているように受け取られてしまうことは勘弁してほしいと一気にまくし立てた。
 いつのまにか、彼女の中の人間らしさがわずか数分のあいだに失われてしまったように見えたのは気のせいだろうか。(P145より引用)

「一見さんお断り」とは、差別である。おもてなし文化を世界に向って宣伝するのはいいが、花街にあるそれはこのような差別意識に基づいている。
 さて、これは余談だが、『ダディ』は財界人との交流を自慢する郷ひろみという一面が知られてなかなか面白いのだが、このエピソードのあと、次のような興味深い一文が続く。

 ここにぼくたちの仲間の大王製紙の井川意高がいたら、これから三十分間は容赦ない攻撃がつづけられただろう。いくらここが病院や学校だといっても、すべてを破壊しつくすまで、自分の気持ちが治まるまで、意ちゃんは止まらない。彼が海外出張でよかった。(P147)

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

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