偏差値も世襲も

 フジ「全力教室 茂木健一郎vs東大生」という番組を見たのだが、茂木健一郎が一方的に極端なことをしゃべるばかりでつまらなかった。たとえば偏差値教育が悪いとか、学力入試を廃止しろとか、そういうことを言う人は他にもいるのだが、その結果、二次方程式も解けない学生が大学に来るようになって、授業は成立するのか。Fラン大学なんて、もはやそんな状態であろう。
 さらに茂木は、「私の友人で市川海老蔵がいるんだけど、彼は教科書を開いたことがないっていうわけ。その彼を、ハーバード大学は、入学させる可能性があるわけ。でも、東大は絶対に入らない。なんで? それはペーパーテストだけで決めるからだよね」と言うのだが、この例も適切ではない。海老蔵がハーバードへ入学したって、授業についていけるはずないんだから、意味がない。
 他の回の放送で、ヤンキーの生徒に予備校教師が授業をするというのをやっていたが、英語も国語もまったく授業が成立せず、けっきょく通俗人生論を話しただけで終わっていた。勉強ができるのもある種の才能である。学問すること、そのものの悦びなど、バカには絶対にわからない。
 東大生には個性がない、それにくらべて海老蔵は個性的だから素晴らしい、と言いたいようだが、歌舞伎というのは伝統芸能であるのだから、役者がことさら個性的である必要はない。世襲でなければ役者になれない歌舞伎の世界より、勉強ができれば入学できる東大の方が、どれほど公平か。
 能力主義をいうのであれば、歌舞伎の世襲制こそ廃止して、なりたい人がなれるようにすべきである。桂米朝の「本能寺」という落語を聴いたが、歌舞伎の型なんてものは良い師匠について練習すれば誰でもできる、と言っていた。