感動してはいけない

 ドリアン助川の『あん』を読んだのだが、これは文学というより道徳の教材である。どら焼き店に、元ハンセン病患者の老婆がやってきて、働き始めるという話なのだが、これはハンセン病でなくても成立する話である。
 ハンセン病患者への差別というのは、これはもう本当にひどい差別である。言語道断で、あらゆる差別の中でも最悪のものである。そうした老婆の悲惨極まりない人生が、こんなよくある人情話で、報われたりするものか。作者が、ハンセン病患者の気持ちを代弁するなど、思い上がりでしかない。我々は皆、加害者である。
 松本清張の『砂の器』なんかも、なにが名作なものか。

あん (一般書)

あん (一般書)