たいした罪にならない

 藤井誠二『 「悪いこと」したら、どうなるの? 』(イースト・プレス)を読む。
 第四章「『少年法』が改正されたのはなぜ?」から適宜引用する。
 1996年、当時16歳の高校生・武孝和君が教室で文化祭の後片付けをしていた。そこへ、他校の生徒六人がやってきた。そして「○○(人の名前)は知らんか?」と聞いて回った。孝和君はその問いがよく聞き取れなかったので「え?」と振り返った。
 この時の態度が「気に食わなかった」という首謀者Aは、校門で孝和君を待ち伏せて、路地に連れ込み、殴る蹴るの暴行を加えた。そして気を失った孝和君に、タバコの吸い殻を投げつけ立ち去った。これにより孝和君は死亡した。首謀者Aは警察に身柄を拘束された。
 孝和君の父親は、「加害者はだれなのか」と警察官にたずねるも、「少年法にもとづき、事件概要や加害者の供述内容などについては知らせることができない」と言われる。
 さらに両親は、加害者の送られた家庭裁判所の調査官を訪ねて、事件の詳細を教えてもらおうとしたが、「家裁は事実関係を云々するところではなく、加害少年が生きていくことを考える場。被害者の親御さんの心情を聞くところではない」と言われる。
 息子を殺された両親は、このままでは、いったい何があったのか、いっさいわからないままになるのではないかと、新聞に情報を求める折込チラシを入れるなど、独自の行動を起こす。それを知った警察が「超法規的措置」で、ようやく事件の概要を説明してくれる。
 それによると、首謀者Aは、「孝和君は髪を茶色に染めて、見るからにケンカが強そうだったため、やらないと自分が負けるかもしれないと思ってやった。あれはあくまでもケンカだ」「相手が倒れた時はびっくりして、あわてて心臓マッサージをした」と供述していた。
 しかし、孝和君の身長は165センチでやせ型だ。色白で髪も染めていなかった。まして孝和君は血友病で、出血が止まりにくい病気を持っていたことから、自分からケンカにのぞむのは自殺行為に等しく、考えにくい。また、Aが心臓マッサージをしていた姿を見た者は、誰もいなかった。
 孝和君の父親は、「息子は一方的に殺されたのに、事実についていっさい知らされない。また加害者はひどい嘘をついているにもかかわらず、被害者が訂正を申し入れたり、本当に事実なのか争うシステムも機会もない。被害者遺族でありながら、私たちは蚊帳の外に置かれている。加害少年の審判の決定後も審判内容を知らされない。Aが審判上、罪を認めたかどうかもわからない」と言う。
 けっきょく首謀者Aは、家裁の保護処分によって、一年間の中等少年院送致となる。
 孝和君の両親は、事件の真実を知りたいと、加害者側を相手取り民事裁判を起こす。その結果、加害者側に約八千万円の支払いを命じる判決が出た。しかし、加害者の親の一部は、自己破産する。それでも賠償金の支払いについては免除されずに、分割という形で払い続けることになる。
 だが、たとえ民事裁判の判決で賠償金の支払いが命じられたとしても、分割ですら支払われずに終わることの方が多く、逃げた者勝ちのようになっている。
 孝和君の両親は、被害者から見てあまりにむごい現状を何とかしたいという思いから、「少年犯罪被害当事者の会」を発足させ、これが少年法の改正につながる。(引用終わり)
 しかしながら、いまだ問題が多い。少年院送りになったところで、その収容期間は短ければ四ヶ月以内での仮退院、「長期処遇」といえども、原則として二年以内である。
「悪いことしたら、どうなるの?」という書名に答えるなら、たいした罪にならない。

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