ホームドラマ

山田太一のシナリオ本『それぞれの秋』(大和書房・1982年・初版)を読んだんだけど、こんなシーンがあった。

●風呂場
稔、入っている。ドアがあけてあり、麗子、ベラベラしゃべっている。稔、面白くない。
稔の声「ぼくが帰って来た時は、親父も兄貴も寝てしまっていたが、母は、夢中で兄貴のことばかりしゃべるのだった。たまにいい事をする奴は、大げさに喜ばれて、ぼくみたいに、しょっ中家の心配をしている人間は、あまり感謝されないのだ。不公平で面白くなかった」


●大学構内(昼)
   ヘルメットの学生達が内ゲバをしている。


●生沢家・ダイニングキッチン(昼)
団地の一室。貴子、紅茶をクッキー皿の傍へ置き、子供の部屋の方を見て、微笑みし「御苦労様でした」という。
(86-87ページ)


内ゲバは、やばいだろ。内ゲバは。
何の脈略もなく唐突にこのシーンが出てくるんだけど、どんな意味があるんだろうか。
稔の心象風景にしても、殺伐としすぎている。
のちの伏線かと思って、やがて主人公が過激派の抗争に参加して鉄パイプで頭をめった打ちにされて、などという展開にでもなるかと思ったのだがそれもないし。
テレビではどういう映像になったのかは知らないが、放送は1973年。すでに陰惨な内ゲバ事件は起こっているから、「内ゲバ」を別の意味で使うとも思えないし。