読書

税金泥棒どものオリンピック

森村進『自由はどこまで可能か-リバタリアニズム入門』を読んだ。 自由主義経済学者のフレドリク・バスティアは、悪い経済学者とよい経済学者を分かつものは、前者が行為や制度の結果のうちすぐに発生するもの、つまり「見えるもの」しか考慮しないのに対し…

教育は個人間の格差を拡大させる

安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』を読んだ。以下引用。 教育の役割は、知識のない人に知識を、能力のない人に能力を身につけさせることと考えられます。 文字を知らない人たちに文字を教え、計算のできない人に計算能力を身に着けさせ、宗教を、…

いいかげんな日本人

パオロ・マッツァリーノ『歴史の「普通」ってなんですか?』を読んだ。 「伝統」という日本語は、英語のtraditionの訳語として明治時代に作られた比較的新しい言葉だという(104頁)。ああ、なるほどと思った。伝統を重んじる保守思想も、近代主義への懐疑か…

差別される理由

糸井重里の推薦文がきもちわるいが、山岸俊夫の本を何冊か読んでみた。 まずは、『「しがらみ」を科学する』 第2章では、ロバート・K・マートン『社会理論と社会構造』に拠りながら、次のように述べている。 アメリカの白人たちが持っている黒人に対する考…

あなたの意思はどのように決まるか?

ダニエル・カーネマン・村井章子訳『ファスト&スロー』を読んだ。 行動経済学の本をいろいろ読んだけど、どうやらこれが元ネタらしいので、最初にこれを読むべきだったな。とはいえ、人間が不合理な選択をするというのは、あたりまえだろ、と思うし、そんな…

すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(黒原敏行・訳)を読む。 その社会では、まるでカースト制度のように人間はピラミッド型の5つの階級に分けられ、下層階級の人たちは奴隷のように扱われている。それでいながら、みんなが幸福に暮らしている。なぜ…

経済学は役に立ちますか?

竹中平蔵が政商と呼ばれるのは、パソナ会長ほか複数の大企業の取締役でありながら、民間議員として政策決定に関わり、自社に有利な政策を通すことで利益を得ているのではないかと疑われるところからきている。 そこで、大竹文雄との対談本である『経済学は役…

土佐源氏は作り話のポルノ小説

民俗学者の宮本常一による聞き書き『土佐源氏』を読んだのはずいぶん前だが、よくできた話で、その当時からこの話の事実性が疑われていた。これが実話なら、誰にも知られず消え去っていくはずだった庶民の営みを、宮本常一が奇跡的な出会いによって採録した…

動物を殺してはいけない

小学校の教師が生徒に豚を育てさせて、最後にはそれを殺して食べるという授業をやったことがあって、これは『ブタがいた教室』という映画になった。こどもたちに命の尊厳を教えるというので、似たような試みはその後もあちこちで行なわれている。だが、動物…

共感しすぎてはいけない

ポール・ブルーム/高橋洋:訳『反共感論』を読む。「相手の身になって考えましょう」などとよく言われるが、そうした共感がかえって愚かな判断を導き、無関心や残虐な行為を動機付けることになる。 共感はスポットライトのような性質を持つ。スポットライト…

世界のために君たちはどう生きるか

ピーター・シンガー著・関美和訳『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』を読む。 子供が浅い池でおぼれているのを発見し、あなたが池に入って引き上げれば簡単に子供を助けることができる状況において、子供を見殺しにするのは悪である。まして自…

本当は怖い靖国神社

原武史『知の訓練』を読む。 大相撲の女人禁制というのが明治以降の「創られた伝統」であることが話題になったが、それをいうなら靖国神社も明治以降に創られたものだ。 その前身は明治2年に建てられた東京招魂社である。ここでそれ以前にはなかった、人を…

本当は怖いイスラム教

飯山陽『イスラム教の論理』を読む。 イスラム教は自らを世界で最もすぐれた宗教だとしている。そしてイスラム法による統治こそが絶対的な正義であり、世界を征服することを本気で目指している。自由や人権や民主主義でさえ、これらは西洋由来の思想だから認…

差別は経済の基盤である

松井彰彦『高校生からのゲーム理論』(ちくまプリマー新書)を読む。 フィラデルフィアでは、白人と黒人との間で完璧に近い「棲み分け」がなされている。金持ちの白人は、白人だけの居住区にかたまって住んでいる。黒人にも金持ちはいるが、白人の居住区に住…

一周回ってガチの差別者

筒井康隆は『ブログ偽文士日録』で、「長嶺大使がまた韓国へ行く。慰安婦像を容認したことになってしまった。あの少女は可愛いから、皆で前まで行って射精し、ザーメンまみれにして来よう」と書いた。これについて非難する者がいたが、もともとあんな人だ、…

呉智英三哲

孔子には多くの弟子がいて、最もすぐれた十人の弟子を孔門十哲という。なかでも子貢という弟子は、たいへんに頭がよく、孔子よりすぐれていた。(『論語』子張第十九の23) 呉智英には多くの弟子がいて、なかでも浅羽通明、宮崎哲弥、小谷野敦は、たいへんに…

すべての人は合理的である

堀江貴文の『多動力』を読む。合理的思考に貫かれていて、それはそれで潔い。「大事な会議でスマホをいじる勇気をもて」と説くが、日馬富士の前でそれをやったら殴られる。 堀江貴文は、「ワクワクすること」だけをやり、自分でも把握できないほどのプロジェ…

「私の支援者が黙っていませんよ」と家永三郎は言った

家永三郎は教科書裁判で左翼のヒーローとなったが、戦時中は軍部に迎合していた。その変節を秦郁彦が『日本占領秘史』(朝日新聞社)の中で指摘したら、家永三郎から抗議された。 秦郁彦はそのときの家永三郎の態度について、読売新聞の「時代の証言者」とい…

哲学しすぎてはいけない

千葉雅也の『動きすぎてはいけない』はさっぱりわからなかったが、『勉強の哲学』はよくわかった。これが同じことを言っているのだとすれば、フランス現代思想というのは、難しい言葉で飾り立てているだけで、たいしたことは言ってない。まともな本を読んで…

美しい花か、花の美しさか

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書)を読む。 2つのデータの動きに関係性があることを、統計学では「相関関係がある」と呼ぶ。 しかしながら、XとYに相関関係があることがわかっても、その結果を用いて因果関係があるとは言…

将棋という謎のゲーム

藤井聡太が勝ちまくっているが、なぜ強いのかはおそらく誰にもわからない。 金出武雄は『独創はひらめかない』(日本経済新聞出版社)の中で、次のように書いている。 つまり、人間も、自分が求めたすばらしいと思っている答えが、本当にベストかどうかを知…

村上春樹にノーベル平和賞を

村上春樹は文学賞ではなく、ノーベル平和賞をもらうべきだと思うんだ。そしてその受賞挨拶で、「私が寝たい相手は女房だけです」と世界にむかって宣言する。 ハルキストは、それこそを待ち望んでいるのだ。 僕はぱちっと指を鳴らした。「すごい。まるで神の…

たった二人で世界は征服できる

多数決はやばい、という話の続きなのだが、多数決がフェアなルールであるためには、有権者がなにものにも拘束されずに、各自で判断できることが必要である。 しかし、どのような政党であろうと、多数の票を獲得するためには団結を呼びかけ、また有権者も自分…

まだ多数決で消耗してるの?

坂井豊貴の『「決め方」の経済学』は勉強になった。多数決ってなんとなくおかしいよなあ、と漠然と思ってはいたのだが、それがやっぱりかなり問題のある制度だということが数理で証明されていて、ふむふむ、と思いながら読了した。 著者によれば、多数決は「…

大地主の孫がロックかよ

橘川幸夫『ロッキング・オンの時代』(晶文社)を読んだら、ロキノンの社長について次のように書いてあった。 渋谷の実家は目白のお屋敷が並ぶ一角にあり、父親は東京大学を出て大和銀行に勤めるエリートであり、母親は北区の大地主の娘であった。(26-27頁…

みやこの西北のとなりのタリラリラン

中野翠の『あのころ、早稲田で』には、まんまとだまされた。 新聞広告では「タモリ、吉永小百合、久米宏、田中真紀子、村上春樹も同じキャンパスにいた」とあったので、彼らとの交流がつづられてあるのかと思って読んだら、ぜんぜんない。ほんとうにただ、同…

永遠の佐々木

辻田真佐憲『大本営発表』(幻冬舎新書)を読んだ。戦時中、日本軍の最高司令部「大本営」がいかにでたらめだったかという論証の本である。 神風特攻隊が出撃すると、海軍と陸軍は競ってそのパイロット名を報道し、宣伝合戦を行った。特攻隊員ではないが体当…

神はなぜ沈黙しているのか

マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙』はまだ観てないが、遠藤周作の原作は読んでいる。 長崎でキリシタンが弾圧されて、拷問によってむざむざと殺されているのに、神はなぜ救わないのか、と問うのである。神はなぜ沈黙しているのか。 映画『マグダレン…

井上ひさしは耳と鼻から血が吹き出るまで妻を殴った

日本近代演劇史研究会編『井上ひさしの演劇』(翰林書房)は、複数の研究者や評論家による論文集である。 この中で、井上理恵は次のように書いている。 「天保十二年のシェイクスピア」はDVDで観た。とにかく長い(二〇〇五年九月、蜷川幸雄演出DVD、…

非常識の効用

宮地弘子『デスマーチはなぜなくならないのか』(光文社新書)を読んだ。たいしたことは書かれてなかったが、社会学の方法論としてエスノメソドロジーというのが紹介されていてこれはおもしろかった。 社会学者のハロルド・ガーフィンケルは、生徒たちに「違…