想像してごらん、奴隷貿易のないリバプールを

 黒人差別反対運動で、イギリスの「ペニー・レイン」まで差別的だと批判されているのだが、こうした流れがどこまで広がるのか見ものである。読売新聞の記事にもあるように、ペニー・レイン通りのあるリバプールこそ、かつて奴隷貿易で栄えた港町である。
 イギリス人にとって、黒人は商品だったのだ。奴隷貿易によってイギリスは発展したのだ。「アメージング・グレース」を作詞したジョン・ニュートンは、奴隷船の船長だった。

 十八世紀の後半、リバプール奴隷貿易の中心的な港だった。
 時は流れて、リバプールで生まれ育った青年達が、アメリカから船便で届くブルースやロックのレコード盤に影響を受けて、ビートルズを結成する。
 もちろんこんな歴史は、ビートルズの音楽に何の関係もないのかもしれない。ジョンもポールも、まだ生まれる前の話だ。しかしながら、「イマジン」が何万回と歌われようが、こんな歴史があったことは誰も口にしない。
 ビートルズエリザベス女王からMBE勲章をもらった際、ジョン・レノンは「戦争で人殺しをして勲章をもらった人達より、音楽でみんなを楽しませた俺たちの方が、勲章をもらう資格があると思う」と発言した。
 しかしこれはリバプールの出身者としては軽薄にすぎる言葉ではないか。
 ロックンロールって音楽は、もともと黒人たちのブルースから始まっている。ジャズだってそうだ。
 中村とうようは『ポピュラー音楽の世紀』(岩波新書)の中で、次のように書いている。
 現在のポピュラー音楽は黒人たちの音楽を、白人が盗むことによって発展した。ブルース音階、コード進行、シャウトやファルセットの発声法、アフリカン・ビート、パーカッションの作る強烈なリズム、ダンス音楽……。
 どれをとっても、黒人のブルースや、ゴスペルが元になっている。黒人の文化を、白人が商品化して、金儲けに利用する。ボサノヴァもレゲエも、サルサもヒップホップもなにもかも。
 黒人からの収奪ということでは、奴隷貿易の頃と何も変わっちゃいない。

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ポピュラー音楽の世紀 (岩波新書)

ポピュラー音楽の世紀 (岩波新書)