橋本治『百人一首がよくわかる』(講談社)を読む。
小式部内侍のよく知られている和歌について、橋本治は次のように解説している。
大江山いくのの道の遠ければ まだふみもみず天の橋立
小式部内侍は若い頃から和歌の名手ではありましたが、お母さんがあまりにも有名なので、「教えてもらってるんだろう、代作してもらってんじゃないの」という声がありました。彼女が「歌合わせ」に出席する時、お母さんの和泉式部は、夫と一緒に赴任先の丹後へ行っていて留守でした。
そこで、意地悪なジーさんがわざわざやってきて、「大丈夫? お母さんには手紙出したの?」と、いやみを言ったんです。それで、小式部内侍はこの歌を詠みました。
(141頁より引用)
これは『十訓抄』と『古今著聞集』にある「大江山」のエピソードである。
いやみを言ったのは定頼中納言である。だが、これを詠んだ時の小式部内侍が少女であれば、わずか四歳違いの定頼中納言もまた若者であり、これを「意地悪なジーさん」とするのは明らかなまちがいである。
- 作者:橋本 治
- 発売日: 2016/04/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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