反証可能性について説明しよう

目次

まちがっている可能性を考えろ

 科学とは、反証可能性である。「反証」とはまちがいを立証することである。つまり絶対的に正しいものは科学ではなく、まちがっている可能性があることが科学なのだ。
 そう言われて納得できるだろうか。科学とは絶対正しいものだとほとんどの人が思っていないか。

三つの数字のルールを探れ

 では、次の問題をやってみてほしい。
 私が問題を出す人で、あなたが答える人である。
「2、4、6」
 という三つの数字が並んでいます。この数列を生み出したルールはなんでしょうか?
 答えを決める前に、あなたは質問を三回することができます。ただし、質問の形は、あなたが三つの数字を示して、それがルールに合っているかどうかを私が、「合ってる(イエス)、合ってない(ノー)」で答える、ということにします。
 さて、あなたはどういう数字を提示しますか?
「6、8、10」かな?
「22、24、26」かな?
「100、102、104」かな?
 いずれもルールに「合ってる(イエス)」と私は答えました。
 では、ルールを答えてください。
「2ずつ増えていく」
「偶数の列」
「順番に並んだ三つの偶数」
 そんなことを答えたあなた、全部まちがい。
 正解は、「とにかくしだいに増えていく三つの数字」です。

自分の思い込みを疑え

 そんなバカな、と思ったあなた。
 ではあなたは、なぜこんなバカな問題に正解できなかったのでしょう。それはあなたが最初に思いついたパターンに飛びつき、自説を裏付ける結果ばかりを求めた続けたせいです。
「2ずつ増えていく」という仮説を思いついた人は、同じルールで「6、8、10」や「22、24、26」といった数を提示して、私にイエス、イエスと言わせます。それでますます自分の考えが正しいと思い込むのです。自分の信念に凝り固まってしまって、他の可能性をまったく考えなくなります。そういう人、よくいるでしょ。
 こんなやり方では、いつまでたっても正解にはたどり着けません。
 いいですか、正解は、「とにかくしだいに増えていく三つの数字」です。
「1、2、3」でも「6、35、700」でも「2、67、428」でも、なんでもいいのです。あなたは「正解は絶対にこうあらねばならぬ」という自分が勝手に思い込んだ小さなルールに、こだわっていただけです。
 この問題に正解するためには、私に「ノー」と言わせて、自分の思い込みを排除しなければならないのです。「5、4、3」とか「7、7、7」とか、「6、4、2」とか、自分が最初に思いついたルールとわざと食い違う数列を試してみてください。そうすれば、すぐに正解がわかります。

自分がまちがっていないか調べよう

 しかし、これがなかなかできない。人は誰しも「ノー」と言われるより、「イエス」と言われることを好みます。自分の考えを否定されるのを嫌い、自説を裏付ける証拠ばかりを求めます。これを確証バイアスと言います。だけど、それではだめなのです。
 すでに持っている思い込みを否定されるのは非常に不愉快なことであり、認識の変更にはエネルギーも要するので、どうしても楽なほう、思い込みの確証にばかり走りがちです。
 それがオカルトや陰謀論や超能力や詐欺話や宗教を信じることに結びつくのです。
「ノー」は「イエス」と同じだけの、いや、それ以上の情報を与えてくれます。
「自分の理論が正しいことを確かめよう」というよりも、「自分の理論がまちがっていないか調べよう」という態度。これこそが、科学における反証可能性ということです。
 自分がどのようにまちがえるかについて考える(反証する)。科学的思考とは、高度に不自然なことを強いるのです。

(参考文献:ジョセフ・ヒース/栗原百代訳『啓蒙思想2.0』NTT出版 P152-162 三浦俊彦『論理パラドクス』二見書房 問62「確証バイアス」 P.C.Wason "On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task"Quarterly Journal of Experimental Psychology 12(1960):129-40)

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