スーパーエリートの受験術

 有賀ゆう『キミにもできる スーパーエリートの受験術』(IPC:1994年)という本は絶版になっており、復刊の見込みもないため、古書価格が高騰している。この本は鹿砦社が著者に無断で再出版しているのだが、それも今は絶版のようだ。
 しかし本というのは絶版だから入手できないというわけではなく、このような売れた本は所蔵してある図書館も多く、最寄りの公立図書館に頼めばたいてい取り寄せてもらえる。図書館の相互貸借制度も知らないような情弱が、ぼったくられているのである。
 さて、本書の内容であるが、復刊ドットコムのリクエストに答える形で、著者の有賀ゆう氏がコメントしている。それによれば、もうこの本にふれられることじたい迷惑のようだ。もともと当時のいろいろな勉強法のいいところを集めただけの内容で、今の時代とは合わなくなっており、間違いもある。この本を今読む価値はまったくない。むしろ読むと害の方が大きい。なかなか誠実な態度である。
 それでも読みたいという人のために、ざっと内容を解説してみよう。本書によれば、合格術には5つの要素がある。
 その1、学習法。試験に対する戦略、つまりは受験テクニックである。私の感想では、本書で役に立つのはこの部分だけである。しかし、もともと和田秀樹らの本で書かれていた方法であり、そちらを読めばこと足りる。
 その2、「脳力」の向上。「脳力」とは記憶力、集中力、速読力のことで、これの向上を目指す。いわゆる記憶術とか速読の訓練について書かれている。はっきり言って疑似科学である。自分の声をヘッドフォンを通じて自分の耳で聞くことで、記憶力が高まるという謎の装置「キオークマン」だとか、耳からの光の点滅刺激によりアルファ派を誘発させる装置「シンクロエナジャイザー」という「記憶力アップの科学兵器」を推薦しており、思わず、本気かよと疑ってしまう。
 その3、生活法。睡眠時間、勉強場所、友人との付き合い方、などについて。能率手帳を使ってスケジュール管理をしよう、というのはいかにも時代を感じさせる。今でいうライフハックである。
 その4、各科目の具体的な学習法。受験テクニックについての本なので、当然ながら推薦されている文献が、受験参考書や予備校本ばかりである。現在では内容が古くなっているし、今の受験には役に立たないであろう。ただし、受験参考書の中にもすぐれた本はあって、そうしたものは今も一般書として読まれている。
 本書で推薦されているものの中から、各教科一冊ずつ挙げておこう。
『山口英文法講義の実況中継』、『秋山数学講義の実況中継』、『出口現代文入門講義の実況中継』、『荻野文子の古文に強くなる実況放送』、『多久漢文講義の実況中継』、『斉藤化学入門講義の実況中継』、『物理教室(河合塾)』、『鞠子生物講義の実況中継』、『菅野日本史講義の実況中継』、『青木世界史講義の実況中継』、『権田地理講義の実況中継』、『受かる小論文の書き方』(ゴマ書房)。
 この「〇〇実況中継」というのは、予備校の人気講師の講義内容をそのまま本にしたものである。人気講師だけあって説明がわかりやすいし、基礎的な教養を身につけるのに良い。予備校で高い授業料を払わなければ受講できない講義の内容が、本代だけでわかるのもお得だ。
 ただこれも現在は、youtubeや学習アプリにもっと良いものがありそうだ。
 その5、成功法。これは、やる気と熱意、深層心理の活用法。ようするに、自己啓発である。目標を紙に書いて壁に貼り、毎日それを見ているとそれが現実になる、といったオカルト話である。
 著者も述べているように、本書は和田秀樹『受験は要領』や、黒川康正『資格三冠王』などの勉強法をまとめたものであり、具体的な勉強法を知りたければ、それらを読めばいい。
 残りはあやしげな疑似科学に基づくものと、ライフハック自己啓発である。
 私はこの本が出た当時に読んでいるのだが、参考になったのが、「受験勉強で一番大切なのは、過去問の記憶です」(P44)という指摘である。それだけかと思うかも知れないが、それだけである。しかしながら、これには目からウロコが落ちた。この世界をピーナツバターに変える呪文を教わったと思った。
 たいていの試験は、過去問の丸暗記で合格できる。問題集は解くものではなく、読んで記憶するものである。わからない問題は、何時間考えてもどうせわからないんだから、すぐに解答を見よ。
 私はこの方法を教わっただけでも、この本を読んだ価値があると思ったが、すでにこれを知ったみなさんは読む価値はない。
 こうした受験術を最初に書いたのは和田秀樹だろう。以来、様々な人が勉強法についての本を書いているが、和田秀樹にしても、宇都出雅巳や「わんこら式」の畠田和幸も、みんなもとから頭がいい。有賀ゆうも、東大理Ⅲと国家公務員Ⅰ種合格者である。生まれつきの頭の良さ、というのは、やはりあるのだ。
 悲しいが、プロ野球選手にはなれないものの、草野球のピッチャーくらいにはなれる、というのが勉強法の限界である。
 メンタリストDaiGoというのは、怪しげなマジシャンかと思っていたのだが、新聞広告で知った『超効率勉強法』を読んでみると海外の文献にも目を通していて、わりとちゃんとしていた。お勧めしておこう。

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