東京のオカヤマ人

 岩井志麻子はテレビでバカなことばかりやってるが、作家としては一流である。私が好きなのは、『東京のオカヤマ人』の冒頭に収録された短編である。
 岩井志麻子が岡山の高校生だったとき、女優のオーディションを受けに東京へ向かう。田舎で生まれ育った平凡な自分に嫌気が差して、なにか冒険をしてみたいと思い、雑誌で見つけたオーディションに応募したのだった。
 行きの新幹線の中で、同郷の青年と出会う。青年もまたマンガ家になる夢を追って上京するところだった。青年はマンガ雑誌で賞を取り、もうすぐ連載が決まりそうだと語り、志麻子に対しても、女優になれるよ、と励ましてくれた。
 しかし、志麻子が受けたオーディションは詐欺みたいなもので、女優になる夢はかなわなかった。志麻子は地元に戻り、別の男性と知り合い結婚して出産する。あの時知り合った青年とはそれっきりで、消息もわからなかった。それがふとしたきっかけで、青年の現在の勤務先を知ることになる。
 青年もまたマンガ家にはなってはおらず、地元に戻っていたのか。志麻子が勤務先を訪ねると、そこに現れた男性は――。
 青春の夢と挫折を残酷なまでに描いた傑作です。
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東京のオカヤマ人 (講談社文庫)

東京のオカヤマ人 (講談社文庫)