あなたの意思はどのように決まるか?

 ダニエル・カーネマン・村井章子訳『ファスト&スロー』を読んだ。
 行動経済学の本をいろいろ読んだけど、どうやらこれが元ネタらしいので、最初にこれを読むべきだったな。とはいえ、人間が不合理な選択をするというのは、あたりまえだろ、と思うし、そんなあれこれを実験で立証したところで、それがなにか? という気もする。昔から知られていることを、「なんちゃら効果」だの「なんちゃらの法則」というふうに名付けているだけのように思えるのだ。
 ちなみに、ダニエル・カーネマンは「ノーベル経済学賞」の受賞者だが、これは通称であり、厳密な意味ではノーベル賞ではない。
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 さて、本書の内容であるが、おもしろく思ったところを抜き書きしてみた。
 まずは、「ハロー効果」である。小泉進次郎のような政治家を支援する者たちのことである。

 たとえば自信たっぷりの美男子が講演会の壇上に上がったら、聴衆は彼の意見に本来以上に賛同すると予想がつく。このバイアスには「ハロー効果」という診断名がついているので、予測することも、認識し理解することも容易になっている。(単行本・上巻10頁)

 もしあなたが大統領の政治手法を好ましく思っているとしたら、大統領の容姿や声も好きである可能性が高い。このように、ある人のすべてを、自分の目で確かめてもいないことまで含めて好ましく思う(または全部を嫌いになる)傾向は、ハロー効果として知られる。

 ある人のたった一つの目立つ特徴についての判断に、すべての資質に対する評価を一致させるよう仕向けるのがハロー効果だからである。たとえばあるピッチャーが精悍な顔つきの大男だと、きっとすごい球を投げるだろうと考えやすい。(上巻290頁)

「後知恵バイアス」「結果バイアス」とは何か。栗城史多とか安田純平を支援する者たちのことである。

 人間の脳の一般的な限界として、過去における自分の理解の状態や過去に持っていた自分の意見を正確に再構築できないことが挙げられる。新たな世界観をたとえ部分的にせよ採用したとたん、その直前まで自分がどう考えていたのか、もはやほとんど思い出せなくなってしまうのである。(上巻294頁)

 後知恵バイアスは意思決定者の評価に致命的な影響を与える。評価をする側は、決定に至るまでのプロセスが適切だったかどうかではなく、結果がよかったか悪かったかで決定の質を判断することになるからだ。たとえば、リスクの低い外科手術の最中に予想外の事故が起き、患者が死亡したとしよう。すると陪審員は、事後になってから、手術はじつはリスクが高かったのであり、執刀医はそのことを充分知っていたはずだと考えやすい。このような「結果バイアス」が入り込むと、意思決定を適切に評価すること、すなわち決定を下した時点でそれは妥当だったのか、という視点から評価することはほとんど不可能になってしまう。(上巻296頁)

 後知恵バイアスや結果バイアスは全体としてリスク回避を助長する一方で、無責任なリスク追及者に不当な見返りをもたらす。たとえば、無茶なギャンブルに出て勝利する将軍や企業家などがそうだ。たまたま幸運に恵まれたリーダーは、大きすぎるリスクをとったことに対して罰を受けずに終わる。それどころか、成功を探り当てる嗅覚と先見の明の持ち主だと評価される。その一方で、彼らに懐疑的だった思慮分別のある人たちは、後知恵からすると、凡庸で臆病で弱気ということになる。かくて一握りの幸運なギャンブラーは、大胆な行動と先見性のハロー効果によって、「勇気あるリーダー」という称号を手に入れるのである。(上巻298頁)

「平均回帰」とは、背の高い父親から生まれた子供は、たいていその父よりも身長が低くなる現象のことである。なぜなら父よりも息子のほうが背が高くなると仮定すると、その孫はさらに高くなり、世代を経るうちに人類の平均身長はどんどん高くなってしまうから。

鬱になった子供たちというのは、他のほとんどの子供たちに比べてひどく元気のない極端な集団であって、このように極端な集団は、時間の経過とともに平均に回帰する。継続的な検査値に完全な相関が成立しないのであれば、必ず平均への回帰が起きる。鬱の子供たちは、猫を抱かなくても、エネルギー飲料を一本も飲まなくても、時間経過とともにある程度はよくなるのである。(上巻269頁)

「非常に頭のいい女性は、自分より頭の悪い男性と結婚する」(上巻267頁)

「直感」よりも「アルゴリズム」のほうが信頼できる。
 ロビン・ドーズによる「結婚が続くかどうかを予測する式」(上巻327頁)
 セックスの回数-喧嘩の回数
 この値が、マイナスになるようならその結婚は危うい。

 人は、経験と記憶とを混同する。
「経験と記憶を混同するのは、強力な認知的錯覚である」(下巻220頁)

 絆創膏をはがすとき、一気に剥がすより、ゆっくり剥がす方が、痛みを感じにくい。
 これを「ピーク・エンドの法則」という。 
 記憶に基づく評価は、ピーク時と終了時の苦痛の平均でほとんどきまる。
 痛みが長く続いても、その持続時間は、苦痛の総量の評価にはほとんど影響を及ぼさない。

 何か出来事を経験した時に、人が瞬間、瞬間に感じる効用(満足)を「経験効用」と呼ぶ。一方、その出来事を後から振り返ってみて出来事について感じる効用を「記憶効用」という。この二つは、同じではない。
 レコードですばらしい曲を40分聴いた。曲を聞いている間はすばらしい演奏だと思い、満足した。しかし、レコードの最後の部分に傷があり、演奏が台無しになったと感じた。それまでの大半の部分は何ら変わらないのに、この曲を聞いた経験を後で思い出すと、その効用、すなわち記憶効用は大幅に下がった。
 すなわち、エンディングがすべてを決める。

 次のような思考実験を行なうと、経験する自己に対する自分の態度を観察することができる。(下巻231頁)
 休暇の終わりに、撮影した写真やビデオをすべて破棄するとします。さらに、休暇の記憶すべて消してしまうような薬を飲むとします。
 事前にこれらのことがわかっている場合、あなたの休暇のプランに影響はありますか?
 記憶に残る普通の休暇と比べた場合、記憶が消失される休暇にいくら払いますか?

 もう一つの思考実験では、麻酔の効かない苦痛に満ちた手術を受けると想像する。
 あなたは手術中に泣き叫び、やめてくれと医師に懇願するだろう、と事前に言われる。ただし手術が終わったら手術中の記憶を消す薬を飲んでよいので、いやな思い出は完全に消し去ることができる。
 あなたはこれについてどう感じるだろうか。

 この思考実験が明らかにするのは、その人の人生観である。
 死ですべて消えてしまうにもかかわらず、生きることになんの意味があるのか?

koritsumuen.hatenablog.com
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