すばらしい新世界

 オルダス・ハクスリーすばらしい新世界』(黒原敏行・訳)を読む。
 その社会では、まるでカースト制度のように人間はピラミッド型の5つの階級に分けられ、下層階級の人たちは奴隷のように扱われている。それでいながら、みんなが幸福に暮らしている。なぜか?
 下層階級の人たちは、生まれた時からそれにふさわしい条件付けをされている。絵本を読もうとした赤ん坊には電気ショックが与えられる。そうするともう誰も本には近づかなくなる。下層階級の人たちが本なんか読むのは、時間の無駄だから。
 赤ん坊は成人すると、鉱山や工場に送られ、死ぬまで働かされる。熱帯地方の製鉄所とか猛毒を扱う化学工場とか、過酷な労働環境なのだが、みんな知能が低いので、それがひどい仕事だとは気づかない。むしろみんな幸福だと思っている。なにしろ仕事のあとは、麻薬とセックスがやり放題、バカでも楽しめるゲームと映画もある。
 本人が幸福ならそれでいいじゃないか、部外者がとやかく言うな、という意見があるが、はたして本当にそれでいいのか、ということを考えさせるディストピア小説の古典である。

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)