非常識の効用

 宮地弘子『デスマーチはなぜなくならないのか』(光文社新書)を読んだ。たいしたことは書かれてなかったが、社会学の方法論としてエスノメソドロジーというのが紹介されていてこれはおもしろかった。
 社会学者のハロルド・ガーフィンケルは、生徒たちに「違背実験」というのをやらせてレポートを書かせていた。これは、普段あたりまえのこととして行っていることにわざと反する行動をして、それによってわれわれが暗黙のうちに従っているルールをあきらかにするという実験である。
 たとえば友人との会話において、
A「おはよう、調子はどう?」
B「調子ってなに?」
A「いや、元気かどうかってことだよ」
B「僕が元気がどうか、なんできみに話さなくちゃならないの?」
 と、いうふうにやる。
 あるいは家庭の中で、自分はよそ者の居候だと思って生活してみる。母親にいちいち「冷蔵庫を開けてもよろしいでしょうか」と断ってから中の物を取り出すとか。そうすると親兄弟からは気持ち悪がられるが、そのことによって家族が暗黙のうちに共有しているルールがあきらかになる。
 twitteryoutubeで、非常識な言動がたびたび問題となるが、あれによってわれわれは、常識というものを知るのである。