長谷川康夫の『つかこうへい正伝』を読み、つかこうへいというのはずいぶんいいかげんで、さほど教養もなく、過大評価されていた人だと思った。直木賞を受賞した小説もエッセイも自分では書いておらず、『つかへい腹黒日記』の内容もぜんぶ嘘。
タイトルだけ先に決めて、内容は稽古場で考えていた。だから、松竹映画を象徴する『蒲田行進曲』というタイトルなのに、内容は東映の太秦撮影所の話になったりした。
まあ、おれは全盛期のつかさんの芝居を観てないので、なんとも言えないが、90年代以降に観たものは役者が怒鳴りあってるだけで、うるさくて、ばかげていて、ひどいものだった。
それで、有吉佐和子というのもかなりおかしなところのある作家だが、こんなエピソードが書かれている。つかこうへいが直木賞を受賞して、『中央公論』四月号で、有吉佐和子と対談をする。つかを含めたグループで海外旅行に行こうとしたとき、有吉佐和子は彼のパスポートを見て、その国籍を知った。そのことをわざわざ対談で話題にする。
有吉 それで私は「あなた、これ、恥ずかしくて内緒にしてるのか」って聞いたわけね。そしたら、「いや、ぼくがこれを逆手に取れば、直木賞でも芥川賞でもとれますよ」って。
つか そんな、賞とれますよ、とかいった覚えはないんだけど。
有吉 あなた、そう言ったの。
つか ほんとですか?
有吉 「だけど、そういうとり方はぼくのプライドが許さない」って。私はね、それでこれは大した奴だ、と思ったの。
つかにとって、こういった有吉の“挑発”は予想外のことだったろう、受け答えの中に、微かに動揺するつかが見て取れる。そしてたぶんそれがわかった上で、あえてこの話を切り出した有吉に、僕はなんともいえない(語弊があるかもしれないが)底意地の悪さを感じてしまうのだ。(P527)
それから、ツービートの漫才が、つか芝居の影響を受けていたことを示す、次の記述を引用しておこう。
(1977年)十月には初のエッセイ集『あえてブス殺しの汚名をきて』(このタイトルは『熱海殺人事件』で木村伝兵衛が叫ぶ「ブスに生きる権利はない!」からきたものだ。芝居ではこのあと客席のひとりを指差し、「おまえだよ」とサラリと言ってのけることで、ドッと笑いが起こる)が出版され、十一月にも文庫書下ろしの『初級革命講座飛龍伝』が世に出ている。(P370)
- 作者: 長谷川康夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
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