ドキュメンタリーにドラマはいらない

 昨年末に放送された「ドキュメント72時間スペシャル」を見たのだが、どうもNHKの作るドキュメンタリーはうさんくさい。おれは「鶴瓶の家族に乾杯」という番組が大きらいなのだが、あんなヤラセにちがいない番組でありながら「ぶっつけ本番」のドキュメンタリーを謳っているところが許せないわけで、それから出てくる庶民がみんないい人ばかりでこれもいかにもNHKが求める理想の庶民像らしくてきらいだ。高学歴で高収入のNHKのスタッフが、バカで貧しい庶民の暮らしを美化するという態度そのものが気に食わない。
 だから週刊文春が報じた仮面女子のスキャンダルで、「ドキュメント72時間」に貧乏アイドルとして出演したけどあれは社長の指示によるヤラセだったというのを読んで、それ見ろ、と思ったものだ。
 それで今回のスペシャルでも「72時間」はヤラセ説を否定するためにメイキング映像を放送していたのだが、新宿二丁目の定食屋を取材する場面で、その店のママがディレクターに「ヤクザっぽい人とかゴロツキみたいなのが来たら、そこには絶対(カメラを)向けないでください」と頼んでいるシーンで、字幕が「危ない人が来たら」となっており、ああやっぱりNHKの倫理規定を通ったいい人たちしか出演させないんだなと思ったものだ。「ヤクザっぽい人とかゴロツキみたいなの」という言葉にこそママさんの人柄とこの店の客層が表されており、それを言い換えたらだめだ。けっきょくどこにカメラを向けてもNHKが撮りたい映像を撮ってるだけである。
 72時間でさまざまなドラマがあるというのだが、それだってどこまで仕込んでいるかわかったもんじゃない。美談にはたいてい裏がある。評判の高い「高知競馬場に夢が咲く」の回で、それまで一勝もしてなかった馬がその日初めて勝つのだが、さきごろ高知競馬場の馬から筋肉増強効果のある禁止薬物が検出されたというニュースがあった。
 これも評判のいいらしい「大都会・真夜中の大衆食堂」で酔っ払ったおじさんが「人生は旅と酒」と言うのだが、旅にも出ないし酒も飲まないオレには通俗テレビドラマの陳腐なセリフにしか聞こえなかった。

観ずに死ねるか ! 傑作ドキュメンタリー88

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