お金か、やりがいか

 Eテレの白熱教室シリーズ「楽しい行動経済学の世界・第6回 私たちは何のために働くのか? 〜仕事のモチベーションを高める方法〜」を見る。
 ある会社の従業員を三つのグループに分けて、業績が上がった人にはそれぞれ報酬を与える。従業員のモチベーションを高めるのには、どれが最も効果的か? 
 1・ボーナス(現金)。2・ピザのクーポン券。3・上司からの感謝のメッセージ。
 答えは3、2、1の順番である。現金よりも、自分の仕事が他者から承認され感謝されることに人は「やりがい」を感じる。
 しかし、である。この実験結果を従業員が知ったあとに、もう一度同じ実験をやれば、結果はちがってくるだろう。金を払うより、メッセージカードの方が効果的というのは、企業にとっては都合がいい。しかしその魂胆を見ぬいた従業員は、もはや上司のメッセージカードなどには、だまされない。感謝の言葉より、現金である。
 ところがそれを承知しながら、なおも低賃金のブラック企業で奴隷のごとく働く者もいるのだから、人はつくづく奇妙である。
 古い本であるが、中山正和『カンの構造』(中公新書)にこんな記述がある。
 ソニーの厚木工場で、十七歳の「女工さん」がトランジスタ製品の歩留まりを向上させる画期的な発見をした。とうぜん褒賞があるべきだが、ソニーではちがった。

 この女子工員の褒章であるが、ソニーでは、こういった場合、彼女の地位をあげたり報奨金を出すということはしないか、または最小限にとどめるという。そうはしないで、たとえば、紅茶とケーキでパーティをする。工場長以下みんながあつまって、「A子さん、おめでとう。あなたのおかげで世界一のトランジスタ工場にまた一歩前進した。ありがとう」という。A子さんは「皆様のおかげです。どうもありがとう」ということになる。
(P173-174)

 もちろん著者は「世界のソニー」のいい話としてこれを紹介したのであろうが、今となってみると、ソニー凋落の原因はこういうところにもあったのである。