君は海を見たか

「君は海を見たか」というドラマは倉本聰の脚本で、1970年に日本テレビで放映された。息子が余命わずかの重い病気に罹ったことを知らされた父親が、これまで仕事ばかりに熱心で、息子を海にさえ連れていってやれなかったことを後悔する話である。1971年に映画化され、1982年にフジテレビでリメイクされた。
 ところで、菅沼定憲『いまなぜ寺山修司か』 (彩流社)を読んでいたら、こんな記述があった。
 NTVで『現代っ子』という番組があり、三十分の単発ドラマで、羽仁進、寺山修司倉本聡原文ママ)、山田正弘、菅沼定憲が脚本を書いていた。

 あるとき、番組プロデューサーから二本の脚本を手渡され、どっちが面白いか感想を聞かせてくれと言われました。寺山修司倉本聡の脚本です。
『君は海を見たか』
 両者のタイトルは同じです。父親と小学生の息子が主人公という設定も似ております。寺山の作品は重い病気に罹り自分が長生きできないと知った父がまだ海を見たことのない息子を海へ連れて行く話です。倉本のほうは元気な父と子が海へ旅する途中、事故で電車が止まり、父は旅を諦めようとしますが、息子がどうしても海が見たいと主張し、歩いて海を目指す話でした。ストーリーは倉本作品のほうが面白いのですが、台詞は寺山作品の方が光っていました。ぼくはそのとおりの感想を述べました。
 プロデューサーの判断は両方とも放送したいがタイトルを変えてほしいと作者に伝えたのです。倉本聰は了承したが、寺山修司はタイトルにこだわり、変えるならば採用しなくてよいと言ったそうです。両作品とも放送され、評判は倉本作品のほうがよかったときいております。
(P39-40)

 テレビドラマデータベースで『現代っ子』を調べてみると、1963年から翌年にかけて53回の放送があり、「倉本聰自ら企画書を出して実現したドラマ」との説明がある。しかし、単発ドラマの内容まではわからない。はたして寺山修司に「君は海を見たか」という脚本があったのか。倉本聰はそこからどういう影響を受けたのか、というのはなかなかに興味深い。