前回にひきつづき、なかにし礼『歌謡曲から「昭和」を読む』(NHK出版)からの引用。
昭和初期の音楽業界というのは、レコード会社が「専属制」を取っていて、作詞家・作曲家・歌手を自社専属として抱え込んで、制作から販売までを一手に行っていた。それが昭和三十年代後半に、渡辺プロダクションが欧米の「音楽出版社」(ミュージック・パブリッシャーズ)のシステムを取り入れて、歌を作るのは作家、その楽曲の著作権の管理等を行うのが音楽出版社、そしてレコードを作るのがレコード会社という分業体制が生まれる。それで売れた楽曲の印税は、作詞家・作曲家・音楽出版社の三者が分け合うことになった。
音楽出版社には主な系列が二つあり、芸能プロダクション系と放送局系である。まず力を持ったのは、芸能プロ傘下の音楽出版社だった。これに対し、テレビ局傘下の音楽出版社は、自社で作る音楽を親会社の電波を通して宣伝する方法を編み出した。テレビ局が音楽番組を制作し、その番組内で、傘下の音楽出版社が作った歌を宣伝するのである。
そうして生み出されたのが、アイドルというものである。
たとえばTBSの「ロッテ 歌のアルバム」からは南沙織の「17才」やペドロ&カプリシャスの「別れの朝」が大々的に取り上げられてヒット。これらはともにTBS傘下の音楽出版社・日音が制作した曲だった。
日本テレビの「スター誕生!」は、阿久悠や都倉俊一を審査員に起用して、多くのスターを送り出し、それらの歌は阿久悠らが作る。そしてその歌の権利を持ち、かつ原盤を制作するのは日本テレビ傘下の音楽出版社・日本テレビ音楽である。番組で宣伝することでレコードを売る、その印税と原盤印税はすべて日本テレビ音楽に入ってくるという仕組みになっていた。
フジテレビは「君こそスターだ!」で、林寛子、石川ひとみ、高田みずえを売り出し、NET(現テレビ朝日)は、「あなたをスターに!」で、岡田奈々、大場久美子を世に出した。前者にはフジパシフィック、後者にはエヌ・イー・ティー音楽出版(現テレビ朝日ミュージック)というテレビ局傘下の音楽出版が深く関わっていた。
こうしたシステムは、アイドルばかりでなく、大人の歌の世界にも適用された。
「TBS歌のグランプリ」、「ザ・ベストテン」などの音楽番組では、もちろん他社制作の歌も取り上げるが、最終的にはTBS傘下の日音が制作した歌を売るためのさまざまな工夫がこらされていたのである。
(P165-167より引用)
ようするにこれは、テレビ局とその傘下の音楽出版社が、自社が権利を持っている作品を売るための工作である。洗脳である。なにが公共の電波か。
- 作者: なかにし礼
- 出版社/メーカー: NHK出版
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