宮本武蔵は外道

 早乙女貢の『実録・宮本武蔵』(PHP文庫)を読む。宮本武蔵に関するたしかな史料はほとんどないそうで、剣聖や求道者であったというのは作り話。本書は「殺人剣には、美などない」という立場から、そうした武蔵の偶像破壊を行っている。若い頃はただの乱暴者で、老いてからは我執にまみれた夜郎自大
「こんな男が剣聖なら、剣聖の大安売り、そこらの中学生が一時間座禅しただけで禅入したというにひとしい。俗臭ぷんぷん、頭の狂った老いたボクサーやプロレスラーを思わせる」(P179)と手厳しい。ほかにも、「牢人が陣馬借りして戦場へ出るのは、一にも二にも、武功を樹てて仕官したいからである。それ以外の何ものでもない。ボクシングやプロレスに出場するのが、金以外の何ものでもないのと同じように」(P153)といった偏見がけっこうあって、おれは好きなのだが、気に触る人もいるであろう。本筋とは関係ないところで、次のような記述もある。

話が飛ぶようだが、昔、ゲーリー・クーパージーン・アーサー?の主演映画で、邦題「将軍暁に死す」というのがあった。支那の将軍になったのが、ポール・ムニカ(うろ覚えだ。荻昌弘か白井佳生に聞けばわかると思うが時間がない)だったが、支那の内乱中で将軍が気狂いに腹をナイフで刺されて死にかける。(P160)

 かなり適当な書き方をしているが、文庫化にあたってなぜ直さなかったのだろう。「将軍暁に死す」に出ているのは、ジーン・アーサーではなくマデリーン・キャロルで、支那の将軍役はエイキム・タミロフである。ネットのせいで、映画評論家じゃなくてもこんなことがすぐわかってしまう世の中になった。

新編 実録・宮本武蔵 (PHP文庫)

新編 実録・宮本武蔵 (PHP文庫)