元ジャーナリスト

 上杉隆の手元には、政治記者たちが政権幹部などをオフレコで取材した40万枚にも及ぶメモがあるという。「上杉リークス」と称しているのだとか。

実はこの膨大な量に上る各社の(1社ではない)メモが、極めて希少なソースを通じて、私の手元に10年以上ほぼ毎日送られ続けているのだ。記者たちが懸命に作り上げたメモは、24時間以内にデータとして私に届く。その数はA4用紙にして日に平均100枚以上。ジャーナリスト生活12年の間で、少なく見積もっても40万枚ものメモを私は保管していることになる。
(最後に投下する「永田町爆弾」上杉リークス「談合記者クラブの恥メモ大公開」週刊ポスト2012/01/01・06日号)

 このメモがどれだけの分量であるか、考えてみたい。
 井上ひさしに『国語事件殺人辞典』という戯曲がある。主人公は国語学者で、まるで白川静のようにたった一人で国語辞典を作ろうとしている。そのために採録した語とその定義を、カードに記録している。その数、37年間で6万枚である。
 この国語学者は志半ばにして倒れるのだが、弟子の山田は、師の業績についてこう語る。

先生は敗戦直後から今日までの三十七年間、一日のおこたりもなく、国語辞典の編纂に全精力を注いでこられました。
カードの数はちょうど六万枚です。すなわち先生の、不世出の国語学者花見万太郎先生編著の、国語辞典の採録総語数は六万語になるはずでした。岩波国語辞典第三版の採録総語数は五万八千六百語ですから、もしこの六万枚のカードが印刷に付されたとしてごらんなさい、岩波国語辞典第三版よりやや厚めの辞典になっていたことでしょう。

 岩波国語辞典に採録されている一語につき、一枚のメモをあてると、その総数は6万枚弱である。
 上杉隆の手元に40万枚のメモがあるとするなら、それは岩波国語辞典7冊分に相当する。いや、一枚のメモが「A4用紙にして」というのであるから、その文字数は岩波国語辞典7冊分を優に上回るであろう。