乙羽さん乙

 名作との誉れ高い新藤兼人監督の『裸の島』であるが、どうにもつまらなかった。あんな百姓はいない。
 このところドキュメンタリーばかり見てきたせいか、すべての演技がうそ臭く、乙羽信子殿山泰司が貧しい百姓のコスプレごっこをやっているようにしか見えない。
 あんな不便な孤島に家族だけで住んでいるというのは、犯罪者で島流しにされたとか、村八分にされているとか、よほどの事情だと思うが、そうした背景はなにも説明されない。おまけにセリフもない。夫婦には子供もいるので、とうぜん会話があるべきシーンでもセリフが聞こえてこないので、音声が消えているような不自然な感じを受ける。
 DVDのコメンタリーを聞いたが、炎天下で作物に水をやれば枯れてしまうというのはわかっていたが、「乾いた心に水をやる」という象徴のために、あえてそういうシーンを演出したと述べている。しかしどうにもこれは、フェイクだ。外人向けに作られたニセモノの民俗映画だ。