会社ごっこ

 泉美木蘭『会社ごっこ』(太田出版)を読む。
 著者は大学卒業後に上京して、渋谷のベンチャー企業に就職。しかしそこはすでに倒産状態で、退職。しかしパーティーで知り合った「スゲーやつ」に誘われて、会社設立を手伝うことになる。その「スゲーやつ」とは、現役早大生でありながら、デジタルハリウッドにも通い、デザイン事務所でバイトもやり、電通博報堂の人と飲みにいったこともあり、USENの面接をバックレ、ソニーの三次面接をけって起業しようとしていた。
 ところがこの「スゲーやつ」は実家が裕福なだけのラッパーくずれで、祖母から二千五百万もの資金をもらって起業したものの、売り上げなし、人脈なし、問い合わせなし。でたらめな経営で、ほどなく倒産。
 そこで著者は、国民生活金融公庫から300万円を借りて、今度はみずからイベント企画会社を起こす。オーディションで若い女イラストレーターを選出し、その作品展示を行い、彼女らの作品を缶バッチにして販売する。
 ところが、計画性なし、スキルなし、でまたたく間に借金は700万円にふくれ上がる。けっきょく倒産するのだが、この過程がおもしろい。
 起業してすぐ、テレビの情報番組に取り上げられるや、サントリーブルドックソースなどの大手企業から、四十万個もの缶バッチの注文が入るのだが、会社にある缶バッチ製造機は、一個ずつ手作業でプレスする仕組みのもの。四十万個なんか、できるかボケ。
 ところが、まわりのスタッフは会社がさも順調だと信じて盛り上がるし、著者も真実が言えないまま粉飾を重ねて、破滅に突き進んでいく。
 いやしかし、実話だけあってリアルだ。ほんと、世の中って、こういういい加減なやつのほうが、圧倒的だろうと思う。
 ウィキペディアによると、これにより著者は、25歳で1000万円の借金を背負う。SMクラブのM嬢として働き、借金を完済。お笑い芸人の小梅太夫と結婚、一児を出産するも離婚。自殺未遂、現在は被災地で取材中、とのこと。

会社ごっこ (本人本)

会社ごっこ (本人本)