AV業界のきれいごと

あんにょん由美香』という不愉快なドキュメンタリー映画を見た。
 林由美香が若くして死んだという週刊誌の記事を読むまで、おれは彼女に興味はなかったし、出演作も見たことがなかった。林由美香にそれほど人気があったということに、むしろびっくりした。あの人、まだ現役だったんだ、くらいの感想であった。林由美香より美人で人気のあるAV女優はいっぱいいた。おれの好みもあるだろうが、この映画で業界の男たちがいくら彼女の魅力を語っても、ピンとこなかった。
 この映画は、林由美香の追悼イベントで、彼女が過去に韓国人の作った稚拙なポルノビデオに出演していたことが明かされ、集まった関係者やファンがそれを見ながら、げらげら笑っている場面から始まる。ここからすでに不愉快だ。
 松江哲明監督はそこから、「なぜ彼女はこの作品に出演することになったのか?」という疑問を抱いて取材を進める。しかし、こんなもの、追求するほどの謎ではあるまい。仕事だから引き受けた、それだけだろ。そう思って見ると、やっぱりそれだけだった。
 松江哲明監督は冒頭で、この韓国製のポルノビデオをさんざんバカにしておきながら、その関係者を訪ね歩くのである。出演した男優は、当時、子供が産まれ、家族を養うために出演したと語る。韓国側のスタッフは、通訳の仕事だと思ったらポルノだった、だまされた、後悔している、と語る。ようするに、そういうたぐいの仕事である。作品の質も低い。それをわざわざ、ほじくり返して、なぜか当時のスタッフに頼み込んで「幻のラストシーン」とやらを撮影してもらうのである。それで一体何を伝えたいのか。
 林由美香のファンである自分に酔っているだけだ。AVをサブカルチャーとして楽しめる感性を持っている僕ってすごいでしょ、この映画から伝わるのはそういう気色の悪いナルシズムである。自分はまったく傷つかない場所から、カメラを回し、弱い立場の人たちを傷つけ、笑いものにしている。こういう鈍感な感性だから、AVの仕事などがやれるのだろう。
 林由美香は主演したドラマ『日曜日は終わらない』が評価され、カンヌ映画祭にも招待されるが、それでもAV出演をやめなかったという。カンヌから帰国してすぐにAVの撮影をしていた、という話を、松江哲明監督はコメンタリーで笑いながら話すのだが、これは笑い話だろうか。
 そこまでせざるを得ない事情が彼女にあった、と考えるのが普通である。19歳でデビューして、34歳で死ぬまで裸仕事をやめられなかったのも、やはり事情があったからだろう。
 松江哲明監督は、ビデオで彼女が本番をやっていたことを暴露する。陰毛も映せず女優が前貼りをするのが当然の韓国製のエロビデオの中でさえ、林由美香は本番をした。あえて書けば、さほど美人でもない女優は、そういうことで仕事をもらっていたのではないか。AV業界の男が彼女を絶賛するのも、ようするに、やらせてもらったから、という理由ではないか。それを女優魂だの、迫真の演技力だの言うな。
 こういう映画を見ると、やはりAV業界というのは、ひどいところだと思う。知的障害の女性をだまして出演させたり、えげつない暴力を振るったり、ということだけではなく、そういう実態を隠蔽してこういう「きれいごと」の映画を作るのも同罪である。『余命1ヶ月の花嫁』もそうだったが、死んだ人で商売をするなよ。
 おれが林由美香のファンなら、彼女を死に追いやったやつを、徹底的に追い詰めるドキュメンタリーを撮るだろう。

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