福沢諭吉は『学問のすゝめ』(第七編)において、
忠臣のために命を捨てたところで、「世に益することなし」と書いている。
権助という小僧が、主人の使いに出て、一両の金を落として途方に暮れ、主人に申し訳がないというので、並木の枝にふんどしをかけて首をくくる。
その小僧の情実を察すれば、あわれである。
しかし、世の人は薄情にも、この権助を軽蔑し、碑を建ててその功業を称する者もなく、宮殿を建てて祭る者もない。
それは、その死が文明を益するものでないからである。
主人のため、主人に申し訳がない、ということで、ただ一命を捨てさえすればいいと思うのは、命の捨てどころを知らない者である。(大意)
これを参考に考えるのだが、自殺というのも、たいてい犬死にである。
世に益することなし。
悪人が死ねば、いくらか世のためになるが、そういう悪人にかぎって、長生きする。
自分の人生など、無意味でかまわない、と考えるのはただのニヒリズムである。
自殺とは、まさに命をかけてのことであるから、どうせなら、「命の捨てどころ」を考え、「文明を益する」ような死に方をしたらどうだろうか。
命を粗末にしてはならない、
というのは、この意味においてである。
- 作者: 福澤諭吉,斎藤孝
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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