内助の功と暴君

ETV特集神聖喜劇ふたたび・作家・大西巨人の闘い」
録画してあったやつを見る。

大西巨人は25年間にわたり小説『神聖喜劇』を書き続けてきた、というか、ほとんどこれしか書いてない作家であるが、それでどうやって生活していたのだろう。

番組では奥さんが、「何度も一家心中しなければならない状態」と生活の苦労を語っていて、たしかに血友病の息子二人を抱えて大変だったろうと思う。(現在は、一戸建てにお住まいのようだが)

おそらく奥さんが働いていたのだろうが、どんな仕事だったかは不明。

しかし、生活を奥さんに頼りきり、それで自分は文筆に専念し、売れる小説を書く作家を俗物扱いし、みずからは高潔な小説家であるという態度には、疑問を感じる。

神聖喜劇』にしても、その軍隊体験というのは、戦闘もない対馬の補充兵の三ヶ月の体験であり、ジャングルで死にかけ、飢えて人肉を食った、なんて体験と比べると恵まれている。

以前の今村昌平の特集では、奥さんがアニメの下請け会社(セル画描き)をやって生計を立てていた、そうだ。

純文学系の作家といえば、貧乏なイメージだが、金井美恵子のように高踏的な文章を書いている人でもその例外ではあるまい。

大江健三郎でいちばん売れたのは『万延元年のフットボール』らしいが、当時で数万部。中上健次も、文壇の評価は高いが、本はほとんど売れてない。

森雅裕推理小説常習犯』によれば、『虚無への供物』の中井英夫は、晩年、年収40〜50万円という悲惨さだったという。

埴谷雄高は、出版社から生活費を借りていたらしいが、死後、『死霊』が文庫化されたのはその貸金回収のためだとすると、出版社もなかなかシビアだ。

埴谷雄高は、人間が自由意志でできることは、自殺と「子供を産まぬこと」という信念から、奥さんに4度も堕胎をさせた。

それから子供を産まないことですが、これは女房に気の毒しましたね。子供を産みたいという普通の願いをもっている女房を徹底的に弾圧して、とうとうスターリンプロレタリア独裁を実現してしまった。

まあ、極度の暴君ですね。戦前は、今とちがって、妊娠中絶が困難な時代だったんです。今から告白すると、女房にまことに気の毒だけど、四度おろさせた。
そのあげくやはり害があって、とうとう子宮そのものを除去しなければならなくなったんです。

それで自然的に子供ができないという状態になってしまって、なぜあなたは私をもらったんだ、子供を産んでいけないなら妻をもらわなければいいじゃないか、と女房は時折まさに正当に反撃するのですけれど、その度に僕は容赦もなく弾圧してしまった。

どうやら僕のスターリン批判は、自己批判の気味がありますね。そして、革命家の内情は、何パーセントかはこういうふうで、つまり、言行不一致である場合が多いのではないか(笑)というのが僕の感慨ですがね。


埴谷雄高/吉本隆明・対談「意識・革命・宇宙」より引用)


武田百合子も、武田泰淳と同棲の間に、四度の堕胎をしている。(その後、一児を出産、結婚にいたる)