日は沈む

DVD『戦争と人間』をレンタルしたあとに、中古ビデオ販売コーナーをのぞいたら、『落陽』のビデオを見つける。

この映画は、『底抜け超大作』(映画秘宝洋泉社ムック)で、橋本忍『幻の湖』、神代辰巳『地獄』、小松左京さよならジュピター』なんかとともに、バカ大作映画として紹介されているんだけど、これも支那事変を舞台にしてて、『戦争と人間』に重なるんだよね。

最近の中国問題とか、また、石原莞爾の『最終戦争論』が、読まれているようでもあるし。

こういうときに、シンクロニシティを感じるんだよね。もっとも養老孟司『ガクモンの壁』によると、「確証バイアス」ということらしいけど。

「人が予期を持ってものを見たり考えたりする時には、その予期に合致した例や部分が強く認識され、反証例にはほとんど注意が払われない。この傾向は確証バイアスと呼ばれ、人の認知過程で広く観察される」

最近のおれが、日中関係とかに関心を強めているから、こういう話題が目に付くわけか。
それで、『底抜け超大作』では、江戸木純氏が、「にっかつにとどめを刺した50億円の素人映画」と、『落陽』を評している。

にっかつが、まったく映画の経験のない伴野朗にいきなり監督させた制作費五十億の超大作である。
(P168より引用)

構想5年、撮影3年、にっかつ八十周年記念映画。
主演、加藤雅也
共演、ダイアン・レイン、ユン・ピョウ、ドナルド・サザーランド
音楽担当、モーリス・ジャール
たしかに、金はかかってるなあ。バブルの頃はこんな企画が通ったんだねえ。

でも公開時の宣伝担当氏の思いは、
「しょうもない作品のせいで、会社をガタガタにさせられたうえ、上からはヒットさせろとか、膨大な量の前売り券を押しつけられそのくせほとんどまともに作品について書かれた文章が存在しない」
という状態だったらしい。

でまあ、シンクロにせよ確証バイアスにせよ、中古ビデオを、迷わず100円で買ったおれは、映画の神様に、「おまえはこれでも見とけ」と、言われたような気がするわけですね。

再び、江戸木純氏の批評を引用すると。

さらにこの映画は、敵味方さまざまな密談で生まれた陰謀、策略、軍略が”混沌”としてドラマを形成している。
基本的に映画の中でこれから起こる出来事はすべて登場人物二、三人の密談によってあらかじめ台詞によって語られてしまう。
台詞で説明されたあとに起こる待ち伏せや襲撃にはもちろん意外性もスリルやサスペンスもない。
しかし、このいかにも日本的な”根回し”によって語られるきわめて珍しい説話式映画術は、打ち合わせばかりして暗躍に明け暮れ、マフィアと同じ手口で金を集め、罪悪感のかけらもなく侵略戦争を進めていった、すべての日本人のずるさ、愚かさをみごとに表現していると言えなくもない。
(P169より引用)

いやでも、たしかに緊張感のない演出なんだけど、笑えるほどのクソ映画でもないんだよね。NHK大河ドラマ風で。

江戸木氏はこれを、日活無国籍アクション的演出による『戦争と人間』と評してるんだけど、ほんとそんな感じ。角川映画みたいだったり。
ようするにその手の、ゴミ映画をいっぱい見すぎたせいで、この程度では驚かなくなってしまったのか。

いや、映画の設定は興味深いのですよ。なにしろ石原莞爾の特命によって、満州国建設の資金を調達しようとする元関東軍大尉の話、ですぜ。
抗日パルチザンとか、上海マフィアとか、馬賊とか、中国女とか、いろいろからんでくるし、脚本を練り直せば、いくらでもおもしろくなるものを。

それで、水野晴郎が、山下奉文陸軍大将の役で出演してるんだけど、『シベリア超特急』のルーツは、この映画だったのか。