時空を超えた恋人たち

映画『きみにしか聞こえない』の原作小説、乙一の『Calling You』が発表されたのは雑誌『ザ・スニーカー』2000年4月号である。
この短編が収録された『きみにしか聞こえない』(角川文庫)のあとがきで、乙一は次のように書いている。

完成した『Calling You』が雑誌に掲載されてほぼ1年後、『オーロラの彼方へ』という映画が日本で公開されました。
実はこの映画、中核にあるアイデアが『Calling You』とまったく同じなのです。
話の内容は異なっているのですが、現在、僕は作者特有の被害妄想から、「やばいやばい、パクリだと思われてしまう」と心配しています。
(読みやすくするため、原文を若干修正)

オーロラの彼方へ』の製作年度が、2000年。乙一氏の言うとおり、偶然の一致であろう。
ところが、韓国映画イルマーレ』(製作年度2001年)のメイン設定も、これとよく似ている。イ・ヒョンスン監督も、それを気にしていたようで、DVD収録のメイキングで、この映画を製作中に、『オーロラの彼方へ』を知ったと語っている。これも、偶然の一致である。
いずれもタイムトラベルを扱った恋愛物で、『Calling You』は携帯電話、『オーロラの彼方へ』は無線機、『イルマーレ』は手紙を入れるポスト、がそれぞれタイムトラベルの鍵となっている。
さらに、奇妙なことに、同じく韓国映画、キム・ジョングォン監督『リメンバー・ミー』もまた、無線機が鍵となるタイムトラベル恋愛もの、なのだ。

製作年度が2000年だから、『オーロラの彼方へ』と同年である。
同じ時期に、日本、アメリカ、韓国で、別々の作家が、同じ物語を作っていたとは、おもしろい。

しかしながら、こうした設定には元ネタがある。ジャック・フィニイの短編SF小説『愛の手紙』である。(収録本『ゲイルズバーグの春を愛す』ハヤカワ文庫)

ぼくは古道具屋で買った机の引き出しにラブレターを見つける。その手紙はヘレンという女性が80年前に書いたものだった。ぼくが返事を書くと、なぜか引き出しの中にヘレンからの返事がくる……。時を越えて手紙が取り結ぶラブストーリー。

これだけ似ていると、上記の映画は盗作に近い。
まあSFはアイデアの宝庫であるし、乙一あたりの奇想も古典SF、ミステリにすでに書かれているだろう。