オラ、机龍之介

市川雷蔵主演『大菩薩峠』全3巻をDVDで。
大菩薩峠』『大菩薩峠 竜神の巻』(三隅研次監督)
大菩薩峠 完結篇』(森一生監督)

市川雷蔵は、眠狂四郎よりも、こっちの方が好きです。

この机龍之介という主人公は、理由もなく人を斬る。

大菩薩峠で、孫娘をつれた老巡礼を、斬る必要もないのに、斬り捨てる。
「金や女を、目的に生きる者がいる。ならば、私は、人を斬ることで生きる」
なんてことを、平然とのたまう。

机龍之介は、虚無につかれた剣士ということであるが、作者の中里介山は、キリスト教社会主義大乗仏教、などに傾倒したようです。

北方謙三が、『眠狂四郎』はハードボイルドだと語っていて、たしかに狂四郎には、虚無の中にも、強きを挫き弱きを助ける、のような、正義があるわけですが、この机龍之介には、そういうものすらない。ただ人を斬るだけ。

現代風に解釈すれば、快楽殺人、サイコパスということになるんだろうけど、

ハリウッド・メソッドとかで、娯楽映画、流行小説などが、どんどん洗練されパターン化していく中で、一昔前の作品というのは、どこか歪で、民話のような残酷さ、不気味さを持っております。

一人の人間の妄想が生み出した長大な物語。

幕末なんてものは、あちこちで人が斬られておったわけだし、理由なき殺人が、はたして現代に特有の病なのか。人間の本質というものは、そうそう変わるものではありません。

現代の通り魔殺人も、江戸時代の辻斬りのようなものかもしれない。