荒川修作の過激な家

NHKの番組「課外授業 ようこそ先輩」で、現代芸術家の荒川修作さんの母校として取り上げられた小学校が、荒川さんの記憶違いで、母校ではなかったことがわかった。
まあ、おとぼけなニュースですけど。
じつはこれ、荒川氏が、わざとやったんじゃないかと、おれは、思ってるんですけどね。まあ、荒川修作さんなら、平気でこのくらいはやるでしょ。
おれはこの番組、見てました。荒川修作の作品には、昔から興味がありましたので。荒川氏には、どこか常軌を逸した信念があって、凄みを感じます。

先の番組でも、斜面をバーッと駆け下りたあとに、
「いま、魂が、ぼくの体から抜け出した。ぼくは、その魂と対話するんだ。わかるか?」
なんてことを、子供たちに説明してました。

これが芸術家でなければ、ただのあぶないジジイです。

最も有名な作品は、岐阜県にある「養老天命反転地」です。

これは、数年前に、たけしの「ここがへんだよ日本人」という番組で、各地にあるムダなテーマパークの一つとして紹介されたので、ご存知の方も多いと思います。立って歩くのも困難なほどの傾斜を持つ施設など、まさに、荒川ワールド全開の、ふしぎなテーマパークであります。
このテーマパークで試みた実験を、さらに一般の住宅でもやってみようというのが、最近の建築家としての荒川氏の仕事です。
そうして造られる家とは、床が球面だったり、部屋中に階段があったり、
「こんな家に、誰が住むのか。いや、住めるのか?」
ってな、家です。
荒川氏の哲学では、
平らな床というのは、ただの常識に過ぎない。こんな場所で安穏と生活しているから、みんな筋力が衰え、能力も衰えていく。そんな暮らしはやめて、曲がった床で、バランスとったり、普段使うことのない筋力や感覚をしっかりと働かせることで、人間が本来持っている能力が、引き出されるのである。
不安定が刺激となり、元気な身体を作るのである。

おれも、番組を見ていて、なるほどなあ、と思いました。ちょっと、あの家に住んでみたいなあ、とも思いました。しかしその理論が正しいのなら、とび職とか体操選手の中から哲学者や芸術家が誕生してもよさそうなものであるが。
それと、こういう過激な思想を、小学生に教えていいのか、という疑問があります。

それはこの「課外授業 ようこそ先輩」という番組そのものに対する、疑問でもあります。
「人間が本来持っている能力が、引き出される」というのは、一見よさそうに思いますが、すべての人は、凶悪な犯罪者や、狂人になる可能性も秘めていると思います。

そうした無意識にある混沌とした欲望は、意識的に抑圧されることによって、凡庸な社会人として生活していけるわけですが、すべての能力が開放された時、とんでもない怪物に変身する可能性も、あります。
とくに、社会的な規範を身につけていない小学生が、こうした本物の思想が持つ凄みに影響されると、天才になるかも知れませんが、とんでもない怪物に育つリスクもあります。
英才教育とか、潜在能力開発とか、そういうものが流行しているようですが、こうしたリスクのことは、忘れられてるように思います。
残酷な殺人を犯した少年が、エロゲーバイオハザードではなく、『三国志』を愛読していたということに背筋がぞっとするのは、本物の文学作品が秘める「毒」に気づかされるからです。
モーツァルトが胎教に良いなどといいますが、本物の芸術が秘める「毒」に気づいた子供が、とんでもない怪物に育つ可能性だって、あると思います。