読書

モンスターマザー

福田ますみ『モンスターマザー』を読んだ。長野の高校で起きた「いじめ自殺事件」についてのノンフィクションである。 自殺した生徒の母親の訴えで、校長が殺人罪で刑事告訴されるという事態にまで発展するのだが、生徒の自殺の原因はこの母親の異常な性格に…

コンテクスト・オブ・ザ・デッド

羽田圭介『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』を読む。 コンテクストとは文脈という意味であるが、わかりやすく言えば「お約束」のことである。 お笑いもライブも映画もスポーツも、世の中は「お約束」だらけである。「お約束」に従うことで、我らは一体感を…

咲ける場所に移りなさい

橘玲『もっと言ってはいけない』を読む。 前著は挑発的でおもしろかったが、続編は「もっと不愉快な本」という触れ込みのわりには期待はずれ。 科学的な証拠(エピデンス)というが、たとえば「利己的な遺伝子」にしても、真木悠介『自我の起原』を読むと、…

伊集院光の馬鹿力

Eテレに『100分de名著』という長く続いている番組があり、伊集院光が司会をしている。ところが番組で取り上げる名著を、伊集院光はほとんど読んでいない。名著を読んでいないのだから、まともな本を何も読んでいないということである。 かといって、伊集院光…

憲法は詐欺である

浅羽通明『『君たちはどう生きるか』集中講義』を読む。 「憲法とは悪質なる詐欺であった」という指摘がすごい。 憲法は人権や表現の自由などの様々な権利を国民へ保障してくれているが、そんなおいしい話はない。その権利を行使するには裁判費用などの金が…

岩波文化人の語るアナキズム

栗原康の『アナキズム』(岩波新書)を読んだが、その幼稚さにあきれた。 アナキストで俳優の天本英世は、吉田照美から「アナキストというのは、泥棒やったり、女を強姦するんでしょ」と言われて激怒したことがあった。しかし、栗原康のこの本を読むと、そう…

税金泥棒どものオリンピック

森村進『自由はどこまで可能か-リバタリアニズム入門』を読んだ。 自由主義経済学者のフレドリク・バスティアは、悪い経済学者とよい経済学者を分かつものは、前者が行為や制度の結果のうちすぐに発生するもの、つまり「見えるもの」しか考慮しないのに対し…

教育は個人間の格差を拡大させる

安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』を読んだ。以下引用。 教育の役割は、知識のない人に知識を、能力のない人に能力を身につけさせることと考えられます。 文字を知らない人たちに文字を教え、計算のできない人に計算能力を身に着けさせ、宗教を、…

いいかげんな日本人

パオロ・マッツァリーノ『歴史の「普通」ってなんですか?』を読んだ。 「伝統」という日本語は、英語のtraditionの訳語として明治時代に作られた比較的新しい言葉だという(104頁)。ああ、なるほどと思った。伝統を重んじる保守思想も、近代主義への懐疑か…

差別される理由

糸井重里の推薦文がきもちわるいが、山岸俊夫の本を何冊か読んでみた。 まずは、『「しがらみ」を科学する』 第2章では、ロバート・K・マートン『社会理論と社会構造』に拠りながら、次のように述べている。 アメリカの白人たちが持っている黒人に対する考…

あなたの意思はどのように決まるか?

ダニエル・カーネマン・村井章子訳『ファスト&スロー』を読んだ。 行動経済学の本をいろいろ読んだけど、どうやらこれが元ネタらしいので、最初にこれを読むべきだったな。とはいえ、人間が不合理な選択をするというのは、あたりまえだろ、と思うし、そんな…

すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(黒原敏行・訳)を読む。 その社会では、まるでカースト制度のように人間はピラミッド型の5つの階級に分けられ、下層階級の人たちは奴隷のように扱われている。それでいながら、みんなが幸福に暮らしている。なぜ…

経済学は役に立ちますか?

竹中平蔵が政商と呼ばれるのは、パソナ会長ほか複数の大企業の取締役でありながら、民間議員として政策決定に関わり、自社に有利な政策を通すことで利益を得ているのではないかと疑われるところからきている。 そこで、大竹文雄との対談本である『経済学は役…

土佐源氏は作り話

民俗学者の宮本常一による聞き書き『土佐源氏』を読んだのはずいぶん前だが、よくできた話で、その当時からこの話の事実性が疑われていた。これが実話なら、誰にも知られず消え去っていくはずだった庶民の営みを、宮本常一が奇跡的な出会いによって採録した…

動物を殺してはいけない

小学校の教師が生徒に豚を育てさせて、最後にはそれを殺して食べるという授業をやったことがあって、これは『ブタがいた教室』という映画になった。こどもたちに命の尊厳を教えるというので、似たような試みはその後もあちこちで行なわれている。だが、動物…

共感しすぎてはいけない

ポール・ブルーム/高橋洋:訳『反共感論』を読む。「相手の身になって考えましょう」などとよく言われるが、そうした共感がかえって愚かな判断を導き、無関心や残虐な行為を動機付けることになる。 共感はスポットライトのような性質を持つ。スポットライト…

世界のために君たちはどう生きるか

ピーター・シンガー著・関美和訳『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』を読む。 子供が浅い池でおぼれているのを発見し、あなたが池に入って引き上げれば簡単に子供を助けることができる状況において、子供を見殺しにするのは悪である。まして自…

本当は怖い靖国神社

原武史『知の訓練』を読む。 大相撲の女人禁制というのが明治以降の「創られた伝統」であることが話題になったが、それをいうなら靖国神社も明治以降に創られたものだ。 その前身は明治2年に建てられた東京招魂社である。ここでそれ以前にはなかった、人を…

本当は怖いイスラム教

飯山陽『イスラム教の論理』を読む。 イスラム教は自らを世界で最もすぐれた宗教だとしている。そしてイスラム法による統治こそが絶対的な正義であり、世界を征服することを本気で目指している。自由や人権や民主主義でさえ、これらは西洋由来の思想だから認…

差別は経済の基盤である

松井彰彦『高校生からのゲーム理論』(ちくまプリマー新書)を読む。 フィラデルフィアでは、白人と黒人との間で完璧に近い「棲み分け」がなされている。金持ちの白人は、白人だけの居住区にかたまって住んでいる。黒人にも金持ちはいるが、白人の居住区に住…

一周回ってガチの差別者

筒井康隆は『ブログ偽文士日録』で、「長嶺大使がまた韓国へ行く。慰安婦像を容認したことになってしまった。あの少女は可愛いから、皆で前まで行って射精し、ザーメンまみれにして来よう」と書いた。これについて非難する者がいたが、もともとあんな人だ、…

呉智英三哲

孔子には多くの弟子がいて、最もすぐれた十人の弟子を孔門十哲という。なかでも子貢という弟子は、たいへんに頭がよく、孔子よりすぐれていた。(『論語』子張第十九の23) 呉智英には多くの弟子がいて、なかでも浅羽通明、宮崎哲弥、小谷野敦は、たいへんに…

すべての人は合理的である

堀江貴文の『多動力』を読む。合理的思考に貫かれていて、それはそれで潔い。「大事な会議でスマホをいじる勇気をもて」と説くが、日馬富士の前でそれをやったら殴られる。 堀江貴文は、「ワクワクすること」だけをやり、自分でも把握できないほどのプロジェ…

「私の支援者が黙っていませんよ」と家永三郎は言った

家永三郎は教科書裁判で左翼のヒーローとなったが、戦時中は軍部に迎合していた。その変節を秦郁彦が『日本占領秘史』(朝日新聞社)の中で指摘したら、家永三郎から抗議された。 秦郁彦はそのときの家永三郎の態度について、読売新聞の「時代の証言者」とい…

哲学しすぎてはいけない

千葉雅也の『動きすぎてはいけない』はさっぱりわからなかったが、『勉強の哲学』はよくわかった。これが同じことを言っているのだとすれば、フランス現代思想というのは、難しい言葉で飾り立てているだけで、たいしたことは言ってない。まともな本を読んで…

美しい花か、花の美しさか

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書)を読む。 2つのデータの動きに関係性があることを、統計学では「相関関係がある」と呼ぶ。 しかしながら、XとYに相関関係があることがわかっても、その結果を用いて因果関係があるとは言…

将棋という謎のゲーム

藤井聡太が勝ちまくっているが、なぜ強いのかはおそらく誰にもわからない。 金出武雄は『独創はひらめかない』(日本経済新聞出版社)の中で、次のように書いている。 つまり、人間も、自分が求めたすばらしいと思っている答えが、本当にベストかどうかを知…

村上春樹にノーベル平和賞を

村上春樹は文学賞ではなく、ノーベル平和賞をもらうべきだと思うんだ。そしてその受賞挨拶で、「私が寝たい相手は女房だけです」と世界にむかって宣言する。 ハルキストは、それこそを待ち望んでいるのだ。 僕はぱちっと指を鳴らした。「すごい。まるで神の…

たった二人で世界は征服できる

多数決はやばい、という話の続きなのだが、多数決がフェアなルールであるためには、有権者がなにものにも拘束されずに、各自で判断できることが必要である。 しかし、どのような政党であろうと、多数の票を獲得するためには団結を呼びかけ、また有権者も自分…

まだ多数決で消耗してるの?

坂井豊貴の『「決め方」の経済学』は勉強になった。多数決ってなんとなくおかしいよなあ、と漠然と思ってはいたのだが、それがやっぱりかなり問題のある制度だということが数理で証明されていて、ふむふむ、と思いながら読了した。 著者によれば、多数決は「…