読書

芸能界は部族社会

かつては党派性などと言ったが、普段えらそうに政府を批判しているやつらが、映画や演劇や音楽や文学など自分が与する業界で不祥事が起きたとたんに、いっせいに口をつぐむか、愚にもつかない擁護をはじめる姿を目の当たりにすると、いまだに我々は部族社会…

脳はあり合わせの材料から生まれた

ゲアリー・マーカス著/鍛原多惠子(翻訳)『脳はあり合わせの材料から生まれた』を読む。 原題は「クルージ(KLUGE)」という。これはエンジニアやプログラマーが、根底にある問題を本当には解決しないで、とりあえず暫定的な「あり合わせ」の解決策を説明する…

証拠があれば事実と言えるのか

アメリカ人の二割が、アポロ11号の月面着陸はなかったと信じている。キリスト教原理主義者は、ダーウィンの進化論もデタラメだと思っている。 いくら証拠を積み上げたって彼らを説得することはできない。なぜなら知識の構成には二つの限界があるからだ。 以…

アクロイド殺しの真犯人

ピエール・バイヤール著/大浦康介(翻訳)『アクロイドを殺したのは誰か』(筑摩書房)を読んだ。 私が推理小説に興味を失ったのは、というよりもとから興味を持てなかったのは、真犯人というものは、いかようにでもこじつけできると思うからである。だから…

読んでいない本について堂々と語る方法

ピエール・バイヤール著/大浦康介(翻訳)『読んでいない本について堂々と語る方法』を読んだ。 テクスト論という胡散くさい批評理論があって、私は全く信じていないのだが、作品は作者の意図とは無関係に解釈されるべきだという流派である。だから小説を読…

誰か死なないかな

山城新伍が昼間にやっていたテレビ番組に永六輔がゲストで出て、無名人名語録を紹介するというので、「まんこと言ってはいけません。ちゃんとおまんこと言いなさい」とやったのを見て、下劣なやつだと思ったことがある。 しかし、永六輔のそういう下劣なとこ…

多文化主義のパラドックス

サスキアは日本への旅行をとても楽しみにしていた。まずは寿司を食べに行った。トロもウニも、絶品だった。しかし残念だったのは、板前が日本人ではなく、インド人だったことだ。出された料理がカレーなら、こんな気分にはならなかったはずなのだが。 次に相…

誰でも作れる名言

ジュリアン・パジーニ/向井和美・訳『100の思考実験』より。 もっともらしく聞こえるパラドックスほど、深遠な思想という錯覚を効果的に生み出すものはない。こういうのはどうだろう。 「前に進むためには、うしろに下がらなければならない」。 自分でも作っ…

「ある男」のネタバレ感想

平野啓一郎の『ある男』を読む。 夫の「大祐」が事故で死んだあとに、その名前も経歴もすべて嘘だったことが発覚する。はたして夫は何者だったのか、というのが推理小説のように語られるのだが、これを推理小説として読むと、いろいろおかしなところがある。…

反証可能性について説明しよう

科学とは、反証可能性である。「反証」とはまちがいを立証することである。つまり絶対的に正しいものは科学ではなく、まちがっている可能性があることが科学なのだ。 そう言われて納得できるだろうか。科学とは絶対正しいものだとほとんどの人が思っていない…

戦争反対のパラドクス

戦争は悪である。どうしてあの戦争を止められなかったのか。だが、もしもあの戦争が起こってなければ、東京空襲も原爆投下もなく、現在とはちがう歴史になっていた。 ということは、すべての人の運命は変わり、私たちも生まれていなかった。私たちが今存在し…

宗教なしの道徳は成立するか

神は「善い行いをせよ」と命じる。 しかしそれは、神が命じるから善いのか、それとも、善いことだから神が命じるのか。 神が善いとするものだけが善いなら、こどもを殺すことさえ善いことにできる。 それ自体が善いことだから神が善いとする、というのであれ…

スーパーエリートの受験術

有賀ゆう『キミにもできる スーパーエリートの受験術』(IPC:1994年)という本は絶版になっており、復刊の見込みもないため、古書価格が高騰している。この本は鹿砦社が著者に無断で再出版しているのだが、それも今は絶版のようだ。 しかし本というのは絶版…

泡沫候補たちの戦い

畠山理仁『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』を読む。 マック赤坂がとうとう港区議会議員選挙に当選したが、この本もいくらかは当選を後押ししたのではないか。泡沫候補というのは蔑称だとして、畠山理仁は彼らを「無頼系独立候補」と呼ぶ。ど…

国会議員に立候補する

といっても私じゃないのでご安心を。若林亜紀『体験ルポ 国会議員に立候補する』という本のことである。 若林亜紀はこないだの参院選にオリーブの木から立候補して、政見放送で歌をうたって、またおかしな泡沫候補が出てきたと俺の中で話題になった。しかし…

東京のオカヤマ人

岩井志麻子はテレビでバカなことばかりやってるが、作家としては一流である。私が好きなのは、『東京のオカヤマ人』の冒頭に収録された短編である。 岩井志麻子が岡山の高校生だったとき、女優のオーディションを受けに東京へ向かう。田舎で生まれ育った平凡…

殺人犯はそこにいる

清水潔『殺人犯はそこにいる』を読む。 調査報道に定評のある著者によるノンフィクションであり、未解決の連続幼女誘拐殺人事件の犯人を特定していることでも話題になった。しかしそれは「ルパン三世」に似ている男と書かれるだけで、実名が記されているわけ…

モンスターマザー

福田ますみ『モンスターマザー』を読んだ。長野の高校で起きた「いじめ自殺事件」についてのノンフィクションである。 自殺した生徒の母親の訴えで、校長が殺人罪で刑事告訴されるという事態にまで発展するのだが、生徒の自殺の原因はこの母親の異常な性格に…

コンテクスト・オブ・ザ・デッド

羽田圭介『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』を読む。 コンテクストとは文脈という意味であるが、わかりやすく言えば「お約束」のことである。 お笑いもライブも映画もスポーツも、世の中は「お約束」だらけである。「お約束」に従うことで、我らは一体感を…

咲ける場所に移りなさい

橘玲『もっと言ってはいけない』を読む。 前著は挑発的でおもしろかったが、続編は「もっと不愉快な本」という触れ込みのわりには期待はずれ。 科学的な証拠(エピデンス)というが、たとえば「利己的な遺伝子」にしても、真木悠介『自我の起原』を読むと、…

伊集院光の馬鹿力

Eテレに『100分de名著』という長く続いている番組があり、伊集院光が司会をしている。ところが番組で取り上げる名著を、伊集院光はほとんど読んでいない。名著を読んでいないのだから、まともな本を何も読んでいないということである。 かといって、伊集院光…

憲法は詐欺である

浅羽通明『『君たちはどう生きるか』集中講義』を読む。 「憲法とは悪質なる詐欺であった」という指摘がすごい。 憲法は人権や表現の自由などの様々な権利を国民へ保障してくれているが、そんなおいしい話はない。その権利を行使するには裁判費用などの金が…

岩波文化人の語るアナキズム

栗原康の『アナキズム』(岩波新書)を読んだが、その幼稚さにあきれた。 アナキストで俳優の天本英世は、吉田照美から「アナキストというのは、泥棒やったり、女を強姦するんでしょ」と言われて激怒したことがあった。しかし、栗原康のこの本を読むと、そう…

税金泥棒どものオリンピック

森村進『自由はどこまで可能か-リバタリアニズム入門』を読んだ。 自由主義経済学者のフレドリク・バスティアは、悪い経済学者とよい経済学者を分かつものは、前者が行為や制度の結果のうちすぐに発生するもの、つまり「見えるもの」しか考慮しないのに対し…

教育は個人間の格差を拡大させる

安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』を読んだ。以下引用。 教育の役割は、知識のない人に知識を、能力のない人に能力を身につけさせることと考えられます。 文字を知らない人たちに文字を教え、計算のできない人に計算能力を身に着けさせ、宗教を、…

いいかげんな日本人

パオロ・マッツァリーノ『歴史の「普通」ってなんですか?』を読んだ。 「伝統」という日本語は、英語のtraditionの訳語として明治時代に作られた比較的新しい言葉だという(104頁)。ああ、なるほどと思った。伝統を重んじる保守思想も、近代主義への懐疑か…

差別される理由

糸井重里の推薦文がきもちわるいが、山岸俊夫の本を何冊か読んでみた。 まずは、『「しがらみ」を科学する』 第2章では、ロバート・K・マートン『社会理論と社会構造』に拠りながら、次のように述べている。 アメリカの白人たちが持っている黒人に対する考…

あなたの意思はどのように決まるか?

ダニエル・カーネマン・村井章子訳『ファスト&スロー』を読んだ。 行動経済学の本をいろいろ読んだけど、どうやらこれが元ネタらしいので、最初にこれを読むべきだったな。とはいえ、人間が不合理な選択をするというのは、あたりまえだろ、と思うし、そんな…

すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(黒原敏行・訳)を読む。 その社会では、まるでカースト制度のように人間はピラミッド型の5つの階級に分けられ、下層階級の人たちは奴隷のように扱われている。それでいながら、みんなが幸福に暮らしている。なぜ…

経済学は役に立ちますか?

竹中平蔵が政商と呼ばれるのは、パソナ会長ほか複数の大企業の取締役でありながら、民間議員として政策決定に関わり、自社に有利な政策を通すことで利益を得ているのではないかと疑われるところからきている。 そこで、大竹文雄との対談本である『経済学は役…