読書

「私の支援者が黙っていませんよ」と家永三郎は言った

家永三郎は教科書裁判で左翼のヒーローとなったが、戦時中は軍部に迎合していた。その変節を秦郁彦が『日本占領秘史』(朝日新聞社)の中で指摘したら、家永三郎から抗議された。 秦郁彦はそのときの家永三郎の態度について、読売新聞の「時代の証言者」とい…

哲学しすぎてはいけない

千葉雅也の『動きすぎてはいけない』はさっぱりわからなかったが、『勉強の哲学』はよくわかった。これが同じことを言っているのだとすれば、フランス現代思想というのは、難しい言葉で飾り立てているだけで、たいしたことは言ってない。まともな本を読んで…

美しい花か、花の美しさか

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書)を読む。 2つのデータの動きに関係性があることを、統計学では「相関関係がある」と呼ぶ。 しかしながら、XとYに相関関係があることがわかっても、その結果を用いて因果関係があるとは言…

将棋という謎のゲーム

藤井聡太が勝ちまくっているが、なぜ強いのかはおそらく誰にもわからない。 金出武雄は『独創はひらめかない』(日本経済新聞出版社)の中で、次のように書いている。 つまり、人間も、自分が求めたすばらしいと思っている答えが、本当にベストかどうかを知…

村上春樹にノーベル平和賞を

村上春樹は文学賞ではなく、ノーベル平和賞をもらうべきだと思うんだ。そしてその受賞挨拶で、「私が寝たい相手は女房だけです」と世界にむかって宣言する。 ハルキストは、それこそを待ち望んでいるのだ。 僕はぱちっと指を鳴らした。「すごい。まるで神の…

たった二人で世界は征服できる

多数決はやばい、という話の続きなのだが、多数決がフェアなルールであるためには、有権者がなにものにも拘束されずに、各自で判断できることが必要である。 しかし、どのような政党であろうと、多数の票を獲得するためには団結を呼びかけ、また有権者も自分…

まだ多数決で消耗してるの?

坂井豊貴の『「決め方」の経済学』は勉強になった。多数決ってなんとなくおかしいよなあ、と漠然と思ってはいたのだが、それがやっぱりかなり問題のある制度だということが数理で証明されていて、ふむふむ、と思いながら読了した。 著者によれば、多数決は「…

大地主の孫がロックかよ

橘川幸夫『ロッキング・オンの時代』(晶文社)を読んだら、ロキノンの社長について次のように書いてあった。 渋谷の実家は目白のお屋敷が並ぶ一角にあり、父親は東京大学を出て大和銀行に勤めるエリートであり、母親は北区の大地主の娘であった。(26-27頁…

みやこの西北のとなりのタリラリラン

中野翠の『あのころ、早稲田で』には、まんまとだまされた。 新聞広告では「タモリ、吉永小百合、久米宏、田中真紀子、村上春樹も同じキャンパスにいた」とあったので、彼らとの交流がつづられてあるのかと思って読んだら、ぜんぜんない。ほんとうにただ、同…

永遠の佐々木

辻田真佐憲『大本営発表』(幻冬舎新書)を読んだ。戦時中、日本軍の最高司令部「大本営」がいかにでたらめだったかという論証の本である。 神風特攻隊が出撃すると、海軍と陸軍は競ってそのパイロット名を報道し、宣伝合戦を行った。特攻隊員ではないが体当…

神はなぜ沈黙しているのか

マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙』はまだ観てないが、遠藤周作の原作は読んでいる。 長崎でキリシタンが弾圧されて、拷問によってむざむざと殺されているのに、神はなぜ救わないのか、と問うのである。神はなぜ沈黙しているのか。 映画『マグダレン…

井上ひさしは耳と鼻から血が吹き出るまで妻を殴った

日本近代演劇史研究会編『井上ひさしの演劇』(翰林書房)は、複数の研究者や評論家による論文集である。 この中で、井上理恵は次のように書いている。 「天保十二年のシェイクスピア」はDVDで観た。とにかく長い(二○○五年九月、蜷川幸雄演出DVD、二…

非常識の効用

宮地弘子『デスマーチはなぜなくならないのか』(光文社新書)を読んだ。たいしたことは書かれてなかったが、社会学の方法論としてエスノメソドロジーというのが紹介されていてこれはおもしろかった。 社会学者のハロルド・ガーフィンケルは、生徒たちに「違…

俺は死ぬまで映画を観るぞ

四方田犬彦『俺は死ぬまで映画を観るぞ』(現代思潮新社)を読んだ。 浦山桐朗が撮った『わたしが棄てた女』を「名作」としたうえで、そのリメイクである熊井啓『愛する』という映画について、四方田犬彦は次のように酷評している。 で、結果はというと、こ…

一月のある寒い日に今日が誕生日の作家の本に出会うことについて

僕が図書館にいたのは特別に読みたい本があったわけじゃなくて、ただ外の寒さから逃れるためだった。図書館の中は暖房が効いていたから、ここではモンクレールのダウンジャケットはもう必要なかった。閲覧室にあるイスは、ほぼ埋まっていた。空いている席が…

谷川俊太郎はなぜ寺山修司を殺したのか

寺山修司の死因は、誤診であった。田中未知は『寺山修司と生きて』(新書館)でそう告発している。 寺山修司は長らくわずらっていた肝硬変で亡くなったのではなく、それとは関係のない腹膜炎(盲腸)を担当医が見抜けなくて死んだ。まともな医者にかかってい…

女性は実に太陽であった

吉田潮のコラムはちっともおもしろくないので、どうせただのバカだろうとあなどっていたのだが、『幸せな離婚』を読んで見る目が変わった。 吉田潮はこれまで百人を超える男たちとセックスをしてきた。はじめは出会い系サイトで、さらにはハプニングバーで乱…

選挙に行ったら負けかなと思ってる

どうして選挙に行かないといけないのだろう。 選挙に行って投票したからといって、世界が変わるわけじゃない。わたしの一票には、たかが一票の価値しかない。その一票でなにができるかと言えば、代表者(政治家)を選ぶだけである。 選挙権があったって、国…

平等という不幸

全国民に、バナナとオレンジをそれぞれ1本ずつ与えたとする。これはたしかに平等である。しかしそれですべての人が幸福かというと、そうではない。なぜなら人にはそれぞれ好みがあり、バナナが大きらいだという人もいるからだ。 そんなAさんにとってはバナ…

乱交のゲイ、純愛のレズ

LGBTというのは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字で、性的少数者を意味するのだが、彼らが性的少数者というだけで一緒くたにされ、手を取り合って街頭パレードをして何かの権利を訴えているのを見ると、どうも違和感を覚え…

つかこうへい、有吉佐和子、ビートたけし

長谷川康夫の『つかこうへい正伝』を読み、つかこうへいというのはずいぶんいいかげんで、さほど教養もなく、過大評価されていた人だと思った。直木賞を受賞した小説もエッセイも自分では書いておらず、『つかへい腹黒日記』の内容もぜんぶ嘘。 タイトルだけ…

奨学金融道

栗原康『学生に賃金を』を読む。著者は執筆当時、35歳。早稲田の大学院を出て年収は80万、奨学金としての借金635万円を抱えていた。 こんな社会はおかしいということで、大学の学費をタダにして、奨学金は返済しなくてもいいことにしろ、と訴える。さらに…

人のためによかれと思い

パオロ・マッツァリーノ『偽善のすすめ』を読む。 日本の歌謡曲やポップスの歌詞で「偽善者ぶって」、「偽善者のフリをする」というのがあるが、これはおかしい。「善人ぶって」「善人のフリをする」が正しいのであり、偽善者ぶるだと意味が逆になる。 「私…

安部公房と娘、その妻と愛人

山口果林の『安部公房とわたし』は、表紙の写真がなんとも魅力的だ。これほどの女性が目の前に現われたら女房を質に入れてでも、つきあいたい。しかし時は過ぎ去り、写真の美女は、写真の中にしか存在しない。そのことが、よけい切ない。 数年前にネットで、…

修行に効果はあるか

ホリエモンの寿司職人に関する発言が話題となった。いわく、寿司職人に大事なのはセンスであり、悠長に何年も修行するのは馬鹿である、と。 これは寿司職人に限ったことではなく、はたして技能を身につけるのに、いったいどういう方法がもっとも有効なのかと…

おれも京都ぎらい

Eテレ「100分de平和論」に法政大学総長の田中優子が出ていたのだが、あいもかわらぬ江戸時代礼賛でうんざりした。 当時、都市に暮らす人々は排泄物を便所にためて、それを農家の人が汲み取りに来て肥料にしていた。さらにそれを商売にする人が現われ、排泄…

ただのCMじゃねえか、こんなもん

大江英樹『その損の9割は避けられる』(三笠書房)を読む。 心理的効果のひとつとして「ハロー効果」というのがある。これは「ある物の評価をする時にわかりやすい特徴に引きずられて、ほかの特徴についての評価がゆがめられること」を言う。たとえば「東京…

天皇はなぜ敬語を使うのか

皇室関連の報道では、新聞でもテレビでも過剰なくらいに敬語が使われる。法の下の平等からすると、これはおかしいのではないか、という意見がある。しかし逆の立場からみると、皇室の方々もまた敬語で話されているのである。なぜ皇室の方々は、国民に対して…

ヒモザイルの感想

東村アキコの『ヒモザイル』が炎上して休載したということだが、最初の2話を読んでみてけっこうおもしろかった。「実際の出来事を元に描いて」いくというのであれば、この騒動も格好のネタになるはずなのに、しかもジェンダーとか炎上とか社会性のあるネタが…

スター・ウォーズで例えると

そういや、「スター・ウォーズ」って見たことないような気がするな。テレビでやってたのをビデオに撮ったことはあるんだけど、それも見ないまま押入れだな。ファンがリア充っぽいのがいやなんだろうな。こんなやつらと価値観を共有したくないという。 「価値…

自衛隊は憲法違反である

SEALDsが、日本の政治や歴史を学ぶための書籍十五冊というのを発表した。そのメンバーによれば、「自由や民主主義を議論する時、土台として知識を共有できる本をみんなで選んだ」ということらしい。この中に芦部信喜の『憲法 第六版』(岩波書店)も含まれて…

トンビがタカを生む法則

『たまたま――日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ著/田中三彦訳(ダイヤモンド社)を読む。 フランシス・ゴールトンが発見した「平均回帰」という法則がおもしろかった。 背の高い父親から生まれた息子は、たいていその父より身長が低くな…

紋切型ばんざい

客「武田砂鉄の『紋切型社会』を読んだかね?」 主「立ち読みで、放り出した。フローベールの『紋切型辞典』やビアスの『悪魔の辞典』があるのに、なんでわざわざそんなのを読まなくちゃならない」 客「まあそう言うなよ。本田靖春と竹中労が好きで、紋切型…

リンリ、リンリと鈴虫が鳴く

永井均は倫理に反することを平然と書く。たとえば次のように。 なぜ人を殺してはいけないか。これまでその問いに対して出された答えはすべて嘘である。道徳哲学者や倫理学者は、こぞってまことしやかな嘘を語ってきた。ほんとうの答えは、はっきりしている。…

ショーほど素敵な商売は

バーナード・ショーの「ピグマリオン」と「聖女ジョウン」を読んだら、びっくりするほどつまらなかった。ノーベル賞を受賞しているのだから、もっとおもしろいものを書いてほしい。

狂犬病の病原体はありまぁす

子供の頃に伝記を読んで、野口英世というのは立派な人だと思っていたのだが、大人になってがっかりした。 最初は、渡辺淳一の『遠き落日』を読んで、こりゃひどい性格破綻者だと知った。それでも立派な業績を残したことは偉大だと思った。ところが、福岡伸一…

あなたもムスリムになれる

中田考『イスラーム生と死と聖戦』(集英社新書)を読んだら、ムスリムには誰でもなれると書いてあった。 ムスリムには、国籍も血統も関係なく、誰でもなれます。入会手続きも入会金も必要ありません。二人のムスリムの立会いのもとで、「ラーイラーハイッラ…

分人的な事情により

平野啓一郎『私とは何か――「個人」から「分人」へ』を読む。人はさまざまな場面で、キャラを演じ分けているが、はたして本当の自分はどれだろうか、という悩みがつねに付きまとう。そこで著者は「分人」という概念を提出する。 たった一つの「本当の自分」な…

行動経済学的にありえない

岡田斗司夫の『「いいひと」戦略』(マガジンハウス)を読む。 いい人には女も金も寄ってくる。だから自分がいい人であることをアピールしまくりましょうという内容である。たしかに悪人と思われるより、いい人と思われた方が得である。すべての人が「いいひ…

環境保護、害虫、人間

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』といえば、環境問題を告発した名著として知られる。農薬や殺虫剤として使われていたDDTの、環境への悪影響を告発した。 DDTは、長期間にわたり土壌や水循環に残留し、食物連鎖を通じて人間の体内にも取り込まれる。発ガン…

人権守って、人類滅ぶ

舞鶴女子高生殺害事件で逮捕された男は、裁判で無罪となった。ところが釈放後、今度はホテル経営者の女性を刃物でメッタ刺しにした容疑で逮捕された。この男の経歴には、他にも殺人などの前科があったことから、先の無罪判決は間違っていたのではないかと言…

なっきー主義

内山奈月X南野森『憲法主義』を読む。小生は、AKB48というものにまったく興味がわかないので、内山奈月さんのことも存じ上げなかったのだが、じつに頭のよいお嬢さんである。 集団的自衛権に関して、 アメリカと仲よくやっていかないと、日本の平和は守れな…

トラウマなんてないよ

『嫌われる勇気』という本が売れているというので読んでみた。 アドラー心理学では、トラウマを否定し、「目的論」の立場を取る。 たとえば「自分は両親に虐待を受けたから、社会に適応できないのだ」と考えて、引きこもっている青年がいる。虐待を受けたと…

人を殺した人のまごころ

河合幹雄『終身刑の死角』を読む。たとえば「有罪率99%」というデーターをもとに検察批判をする人がいるが、それはまちがいであることが本書を読めばわかる。 逮捕されたらすべて有罪になるなどということはない。その反対に、刑務所には、なかなか入れない…

ドツボからの脱出法

長谷正人『悪循環の現象学――「行為の意図せざる結果」をめぐって』を読む。 「行為の意図せざる結果」とは、「ある目的に向かって努力すればするほどかえって目的から遠ざかってしまうような現象」のことを言う。たとえば、「寝るぞ」と思って床に就いて、寝…

それでも僕は浄水器を売る

水野敬也の『それでも僕は夢を見る』という本を読んだので、感想を書いてみたいと思います。 主人公の「僕」は、「ユメ」に出会って、浄水器とか空気清浄機を売るようになります。しかし思うようには売れず、友達はなくすし、借金は増えるし、きびしい現実に…

世界よ、これがおもてなしだ

NHKの「探検バクモン」で、爆笑問題が新橋花街を訪れていた。「格式高い花街には、現在にもおもてなし文化が脈々と受け継がれています」とのことらしい。そんな格式高いお茶屋や料亭が、よくぞこんなお笑い芸人ふぜいを座敷にあげたものだと感心した。 郷ひ…

幻想の英雄たち

ゴーストライターというので思い出すのは、津田信の『幻想の英雄』という本で、これは小野田寛郎のゴーストライターをしていた著者がその真相を暴露したもので、おれは学生の頃に読んで衝撃を受けた。 ネットで全文公開されている。 『幻想の英雄』の時も、…

テレビ東京を見直す

高橋弘樹『TVディレクターの演出術』(ちくま新書)を読む。 どうせ、ヤラセは悪くないだの、おもしろければなんでもOK、とかいうような、浅はかで露悪的な自慢話を聞かされるのだろうと期待せずに手に取ったら、まったくちがっていた。なにしろ著者はTVディ…

ラサールなんとか

ラ・サールといえば進学校で知られるが、わが国におけるラ・サール会による学校運営の本格的な始まりは、戦後、仙台で設立された孤児院からである。その孤児院で育った井上ひさしは、カナダ人修道士たちの献身的な態度を、次のように記している。 わたしが信…